米澤穂信さん「さよなら妖精」 [本☆☆]
「春期限定いちごタルト事件」や「夏期限定トロピカルパフェ事件」のようなミステリを期待したの
ですが、これは…青春小説ですね。それも、かなり青臭い。これはこれで嫌いではないですが。
地方都市に住む高校3年生の守屋路行は同級生の太刀洗万智と下校途中に雨の中で立ち尽くす
外国人の少女と出会います。彼女はユーゴスラヴィアから来たマーヤと名乗ります。政府高官
らしい父親と来日し、父親と離れてこの町に2ヶ月間滞在します。その間の守屋たちとマーヤとの
交流が描かれます。
やがてマーヤは故郷に帰って行きます。6つの連邦からなる多民族国家であり、モザイク国家とも
呼ばれたユーゴスラヴィア連邦の分裂・内戦のさなかに。
守屋の一人称で話は進められ、安泰とした現状に違和感を抱いている守屋に開かれた窓と
してのマーヤの存在が浮かび上がってくるくだりは普遍的なテーマゆえにデジャヴを覚えながらも
共感を覚えました。
なにより、音信普通となったマーヤの故郷をつきとめようと過去の手掛かりから推理をしていく
1年後の場面で守屋を始めとしてマーヤと関わりのあった人たちの心情が吐露されるシーンは
痛々しくありました。
ただ、そんな中にも希望は埋め込まれています。たとえ現実がどうであろうと。
この出版社の傾向(?)なのか、好奇心旺盛なマーヤを媒介にして「日常の謎」をちりばめて
いるものの、北村薫さんや加納朋子さんのような気持ちよく予想を裏切られるようなトリックは
なく、この点はどうなのかな、と思いました。
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