樋口有介さん「海泡」 [本☆☆☆]
樋口さんらしさ満載です。夏、故郷、ミステリ。
大学の夏休みに、洋介は2年ぶりに小笠原へ帰省した。難病に苦しむ初恋の女性に会うのに忍びなく、帰りにくかったのだ。竹芝からフェリーで26時間、平和で退屈なはずの島では、かつての同級生がストーキングされていると噂が立ち、島一番の秀才は不可思議な言葉を呟く。やがて続けざまに起こった二つの事件。常夏の島を舞台に、伸びやかに描いた青春ミステリを大幅改稿で贈る。
(出版社HPより)
小笠原諸島の父島が舞台です。行ってみたい場所ですが、船で26時間となかなか気軽に行ける場所でもなく。
夏休みの父島は観光客に短期のアルバイトに帰省客、そして皆が顔馴染みの島民でごった返しています。
そんな島の気怠さや刹那さが伝わってくるようでした。
物語は樋口さん作品のテンプレート、といっても過言ではないものです。
里帰りした主人公の洋介が幼馴染と再会するうち、洋介と同じように東京に出ていた和希が展望台から転落死します。更に犯人と思われていた和希をストーカーしていたという男も殺されます。
閉ざされた島で洋介は真犯人を探します。
斜に構えた物言いなのに、なぜかモテる主人公という設定もお馴染みです。屈託を抱えた雰囲気のせいでしょうか。
南国をイメージさせる開放的な空気と奔放さと、対照的に閉鎖的な社会が生み出す重苦しさのギャップがいいです。
タイトルに込められた意味がなかなか深いものがありました。
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