SSブログ

小川哲さん「ユートロニカのこちら側」 [本☆☆]


ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 哲
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: 文庫



なかなか難解な、それでいて今や近い未来を想像させる背筋の寒くなるSF小説です。
第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作です。

アガスティアリゾート――マイン社が運営する、サンフランシスコ沖合の特別提携地区。
そこでは住民が自らの個人情報――視覚や聴覚、位置情報などのすべて――への無制限アクセスを許可する代わりに、基礎保険によって生活全般が高水準で保証されている。
しかし、大多数の個人情報が自発的に共有された理想の街での幸福な暮らしには、光と影があった。 リゾート内で幻覚に悩む若い夫婦、潜在的犯罪性向により強制退去させられる男、都市へのテロルを試みる日本人留学生――SF新世代の俊英が、圧倒的リアルさで抉り出した6つの物語。
そして高度情報管理社会に現れる"永遠の静寂"(ユートロニカ)とは。
第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。
(出版社HPより)

ユートピアなのかディストピアなのか、物語で語られる世界は二面性を持っていると思います。ある人にとってはユートピア、別の人にとってはディストピアといったように。
それも支配階級と被支配階級といった図式ではなく、一般市民の中で分かれるといった多様性の中での管理社会が描かれています。

更には「意識の無意識化」がもたらすものはどんな世界なのか。施政者にとってこれほど都合のいい社会はないでしょうね。もっとも、個人的にはそんな人物に価値があるのかと思ってしまいますが、現実にそういった人間が作られているような気がしないでもありません。

また、監視カメラにAIを搭載して高度な顔認識精度を持つ公安システムを構築したり、個人に信用スコアシステムを打ち出すなど中国に顕著な…よりソフトなものでいえばECサイトの購入履歴の蓄積で個人の嗜好を収集するといったこともこの作品の提示した世界の萌芽といえるかもしれません。

もう一つ、日々の行動や血流・呼吸などのデータの解析から犯罪を予測して当人を拘束する「思想犯」は果たして犯罪かというテーマです。
通り魔事件のような陰惨な事件を未然に防ぐことはできるでしょうが、発生しなかった事象に対してのそれは基本的人権の侵害にならないのかといった問題もあります。(物語上ではセーフティーネットがかけられていましたが)

描かれた世界が起こり得る近未来の姿に対して実像なのか虚像になるのか、そんなことを思いながら読みました。

nice!(15)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 15

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。