山田正紀さん「カムパネルラ」 [本☆☆]
本当に久しぶりに山田正紀さんの本を手に取りました。
「何度も改稿される『銀河鉄道の夜』の世界に僕は迷い込んだ」という惹句通りのSFミステリです。
十六歳のぼくを置いて、母は逝った。研究者だった母は、現政権の思想教育の要となっている宮沢賢治作品―とりわけ『銀河鉄道の夜』を熱心に研究し、政府が否定する「第四次改稿版」の存在を主張していた。遺言に従い、遺灰を携え花巻へ行ったぼくは、ふと気がつくと土砂降りの中、賢治が亡くなった昭和八年九月二十一日の二日前に転移していた。いまなら彼の死を阻止できるかも知れない―その一念で辿り着いた賢治の家でぼくを迎えたのは、早逝したはずの宮沢トシと、彼女の娘「さそり」だった…永遠に改稿され続ける小説、花巻を闊歩する賢治作品の登場人物―時間と物語の枠を超えた傑作長編SF!
(「BOOK」データベースより)
『銀河鉄道の夜』は第3次稿と4次稿との間で大きな改稿があるそうです。
物語では思想教育を強化する政権によって『銀河鉄道の夜』が利用され、第4次稿は存在しないものとされています。第3次稿と4次稿との間の溝━政権にとって必要不可欠な━が物語のポイントになっています。
花巻を訪れた主人公は時空を遡り、更には「ジョバンニ」と呼ばれ、おまけにカムパネルラ殺しの嫌疑をかけられます。
賢治の妹のトシ(「永訣の朝」ですね)が生きていて、「さそり」というトシの娘が存在して、更には風野又三郎が登場します。
ただのタイムスリップものではなく、昭和8年(1933年)の東北地方の風景に、『銀河鉄道の夜』の世界が溶け込んでいる展開に初めは戸惑いましたが、物語が進むにつれてどんどん引き込まれていきました。
ただ、昭和8年の花巻と近未来と、『銀河鉄道の夜』の世界との展開がめまぐるしく理解が追い付かない部分がありました。
宮沢賢治の思想の変遷が『銀河鉄道の夜』の改稿に表れているようで、いつか読んでみたいと思います。
作中の、政府が標榜する「思い出そう、美しい日本」というスローガンとか、総理大臣の顔を大写しにしたポスターなんて、現実とリンクするように思えてその薄気味悪かったです。
作者の意図したものはなんだったんだろう。
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