諸田玲子さん「帰蝶」 [本☆☆]
斎藤道三の娘で信長の正室、明智光秀の従妹だったお濃の方こと帰蝶の半生を描いた作品です。
そこには信長の栄華と滅亡が切り離せずにいます。
「上さまは、いつから、悪鬼に魂を売りわたされたのか――」
夫・信長が、神をも畏れぬ所業に手を染めていく。歯止めをかけるべく、出身である美濃の家臣たちの期待を一身に背負った正室・帰蝶(濃姫)は、残虐さをあらわにしていく夫に怯えながらも織田家の奥を束ね、したたかに、たくましく生きていく。
そんな帰蝶が心を許せるのは、美濃衆と、心の友とも言えるあの男だった……。
そして起きた本能寺の変――。信長に叛旗を翻したのは、帰蝶の従兄・明智光秀。
光秀に最後の決断を促したのは、一体誰なのか。織田家の要となった帰蝶の運命はいかに。
大胆な発想を交え、女の目線から信長の天下布武と本能寺の変を描き切った衝撃作。
(出版社HPより)
史実にもほぼ残っていない戦国時代の女性について描いた諸田さんの想像力が素晴らしいです。
当時の女性については表舞台に出ることもあまりないので、どんな生活だったのかは明らかになっていません。逆にそこに作家の創造性が生まれる余地があり、本作も帰蝶の視点を中心とした織田家の栄華盛衰が描かれています。
信長など歴史に名を残した人物だけでなく、帰蝶の輿入れ時に織田家の家臣になった斎藤玄蕃助と新五の兄弟や、京の豪商にして禁裏の御倉職でもあった立入宗継、信長の側室のお鍋といった脇役たちも陰で物語を支えます。
本書では本能寺の変の真相は複合的な要因だったとされています。
研究者や作家によって様々な説があがり、歴史的史料が発見される度に新解釈が出るのも正解がわからないこその楽しみです。
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