SSブログ

佐藤亜紀さん「スウィングしなけりゃ意味がない」 [本☆☆☆]


スウィングしなけりゃ意味がない (角川文庫)

スウィングしなけりゃ意味がない (角川文庫)

  • 作者: 佐藤 亜紀
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/05/24
  • メディア: 文庫



佐藤亜紀さんでないと書けない作品です。
それまでの作品に見られたようなファンタジー要素のない、(おそらく)史実に沿った第2次世界大戦期のナチス政権下のドイツの空気すら感じられるようです。

1940年代、ナチス政権下のドイツ。
金もあるし、暇もある。
無敵の悪ガキどもが、夢中になったのは敵性音楽のジャズだった――!

1939年ナチス政権下のドイツ、ハンブルク。軍需会社経営者である父を持つ15歳の少年エディは享楽的な毎日を送っていた。戦争に行く気はないし、兵役を逃れる手段もある。ブルジョワと呼ばれるエディと仲間たちが夢中なのは、”スウィング(ジャズ)”だ。敵性音楽だが、なじみのカフェに行けば、お望みの音に浸ることができる。ここでは歌い踊り、全身が痺れるような音と、天才的な即興に驚嘆することがすべて。ゲシュタポの手入れからの脱走もお手のものだ。だが、そんな永遠に思える日々にも戦争が不穏な影を色濃く落としはじめた……。一人の少年の目を通し、戦争の狂気と滑稽さ、人間の本質を容赦なく抉り出す。権力と暴力に蹂躙されながらも、“未来”を掴みとろうと闘う人々の姿を、全編にちりばめられたジャズのナンバーとともに描きあげる、魂を震わせる物語。
(出版社HPより)

10代の少年ができることかどうかはともかく、ジャズを聴き、踊る、ただそれだけに情熱をかける少年たちが描かれます。
初めは鼻持ちならない金持ち連中と思い、次第に様々な境遇の少年たちを組んで体制(ゲシュタボやヒトラーユーゲント、親衛隊)に反逆し始めることで痛快さを覚え、やがて空爆により多くのものを失い、虚無の中で終戦を迎え、自由、開放、喪失感それらがないまぜになったやるせなさをひしひしと感じました。

BBCのラジオ放送に耳を傾け、ラジオの感度を上げるためにチューニングをし、そこからレコードを作って密売してしまうように、行動原理の中心にジャズがあります。そこには金持ちも貧乏もなく、政治理念の右左もなく、アーリア民族もユダヤ民族の隔てもありません。けれども「音楽の前では平等」とかイデオロギーをふりかざすこともありません。
自然で自由で規制されない経済主義とでもいいましょうか。

決して戦争の悲惨さを訴えるのがテーマではありませんが、ラストにいいようのない幸福感と虚脱感と無常さを覚えました。


ドイツ全土ではなくハンブルグだけが降伏するなんてことがあったんですね。大阪だけが降伏するようなイメージですかね。

nice!(23)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 23

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。