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上田早夕里さん「破滅の王」 [本☆☆]


破滅の王 (双葉文庫)

破滅の王 (双葉文庫)

  • 作者: 上田 早夕里
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2019/11/14
  • メディア: 文庫



ページも内容も厚みのある、史実と虚構が入り混じるSF歴史小説です。
細菌とウイルスは違いますが、世界中に新型コロナウイルスが蔓延しているときに読んだのは偶然だったのか。

一九四三年、上海。かつては自治を認められた租界に、各国の領事館や銀行、さらには娼館やアヘン窟が立ち並び、「魔都」と呼ばれるほど繁栄を誇ったこの地も、太平洋戦争を境に日本軍に占領され、かつての輝きを失っていた。上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本は、日本総領事館から呼びだされ、総領事代理の菱科と、南京で大使館附武官補佐官を務める灰塚少佐から重要機密文書の精査を依頼される。その内容は驚くべきものであった。「キング」と暗号名で呼ばれる治療法皆無の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は、途中で始まり途中で終わる不完全なものだった。宮本は治療薬の製造を任されるものの、それは取りも直さず、自らの手でその細菌兵器を完成させるということを意味していた―。
(「BOOK」データベースより)

上海自然科学研究所が前半の舞台だったため最初は『夢みる葦笛』収録の「上海フランス租界祁斉路三二〇号」の幻想的なイメージを持って読み始めたのですが、まったく違う重厚で男臭いものでした。

狂気の日本人科学者が満州で生み出した致死率の高い細菌R2vをめぐって軍部と諜報機関の主導権争い、治療法を探し出そうとする科学者たちとのせめぎ合いが描かれます。

未知の細菌の治療法を見つけることが細菌兵器としての道を開いてしまうという科学的進化と倫理の葛藤に悩まされる主人公の宮本が、やがて科学者としての使命を再認識する転換シーンがよかったです。

宮本の親友で同僚の、後に失踪する六川、宮本に創薬依頼をする諜報機関の灰塚少佐、上海自然科学研究所の日本人・中国人の研究員たちが脇を固めます。
更には上海の中国人裏社会や蒋介石率いる国民軍、謎のドイツ人が絡んできます。

SF(空想科学小説)なのか、スパイ・アクション小説なのか、サスペンス小説なのか、それともジャンルを越えた作品なのか、位置づけがはっきりしませんでした。
どのジャンルにしても魅力的なんですが、反面、物足りなさを感じてしまいました。

配分の問題か、ページが足りなくなった(?)せいか、力尽きたのか(まさかね)、途中から駆け足になってしまい、終盤は灰塚少佐が赴くベルリン編が挿入され、最後はなんだかよくわからない終わり方になってしまったのが残念でなりません。
上下巻に分けてもいいから、終盤を密に描いてほしかったです。


灰塚少佐が欧州で活躍するスピンオフ作品、なんてのは安直すぎるでしょうか。
スパイ小説としては面白いと思うんですが。

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