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松尾由美さん「雨恋」 [本☆☆]


雨恋 (新潮文庫)

雨恋 (新潮文庫)

  • 作者: 松尾 由美
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/08/28
  • メディア: 文庫



ミステリとファンタジーと恋愛が上手くミックスされた作品です。

ある晩、マンションの居間で彼女は語りだした。「わたしは幽霊です。そういうことになるんだと思います」。OL・小田切千波は自殺したとされていた。だが、何者かに殺されたのだ、と訴えた。ぼくは彼女の代わりに、事件の真相を探ることにする。次々と判明する驚愕の事実。そしてぼくは、雨の日にしか会えない千波を、いつしか愛し始めていた。名手が描く、奇跡のラブ・ストーリー。
(「BOOK」データベースより)

主人公の沼野渉が海外勤務の叔母に留守番を頼まれて住むことになったマンションに、雨の日にだけ現れる幽霊━千波━、それに気付くのが飼い猫たちという導入部がいいです。
足から次第に姿を現す幽霊って…日本のそれの「しきたり」の逆をいく展開に笑ってしまいました。
それが渉にもたらす「効果」にも思わず笑ってしまいました。

惹句ではラブストーリーとなっていますが、ミステリ色の濃い作品だと思います。恋愛要素もなくはないのですが、薄いです。

ラストが切なく温かいです。思わずうるっときました。

ただ、千波の死の真相については中盤辺りで見当がついてしまいました。ミステリ色があったのに、そこだけが残念。

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鳥めし 鳥藤 のとりそば しお [お店]

築地魚河岸食堂にある鳥藤でとりそば(しお)をいただきました。
明治四十年創業の鶏肉卸の鳥藤さんの直営店だそうです。

https://www.toritoh.com/contents/category/uogashi/

むしどりそば、とか、てばさきそば、とか、四川担々麺、酸辣湯麺、さらには蒸し鶏ごはんなんてのもあり、迷いに迷いましたがシンプルなとりそばをいただきました。スープがしおと醤油とあったのでしおで。

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スープは半透明で鶏の旨みが効いています。
チャーシューではなく鶏照り焼き。こちらもジューシーで食感もあって美味しいです。
煮卵は言わずもがな。


築地場外市場には鳥藤分店もあるので、そちらにも行ってみようかと思います。

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本多孝好さん「dele」 [本☆☆]


dele (角川文庫)

dele (角川文庫)

  • 作者: 本多 孝好
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 文庫



依頼人の死後にリモートで依頼者の指定するデジタルデータを消去するという今っぽいサービスをめぐるミステリ&ヒューマン連作短編集です。
MOMENT』にどこか通じる作品です。

「ファースト・ハグ」「シークレット・ガーデン」「ストーカー・ブルーズ」「ドールズ・ドリーム」「ロスト・メモリーズ」の5編が収められています。

【あなたの死後、不要となるデータを削除いたします。】
罪の証。不貞の写真。隠し続けた真実。
『dele.LIFE』で働く圭司と祐太郎の仕事は、秘密のデータを消すだけ――のはずだった。
あなたの記憶に刻まれる、〈生〉と〈死〉、〈記憶〉と〈記録〉をめぐる連作ミステリ!

『dele.LIFE(ディーリー・ドット・ライフ)』。
真柴祐太郎がその殺風景な事務所に足を踏み入れたのは、三ヶ月ほど前のことだった。
所長であり唯一の所員でもある坂上圭司いわく、「死後、誰にも見られたくないデータを、その人に代わってデジタルデバイスから削除(delete)する。それがうちの仕事だ」。
誰かが死ぬと、この事務所の仕事が始まるのだ。
新入りの祐太郎が足を使って裏を取り、所長の圭司がデータを遠隔操作で削除する。
淡々と依頼を遂行する圭司のスタンスに対し、祐太郎はどこか疑問を感じていた。
詐欺の証拠、異性の写真、隠し金――。
依頼人の秘密のファイルを覗いてしまった二人は、次々と事件に巻き込まれる。
この世を去った者の〈記録〉と、遺された者の〈記憶〉。
そこに秘められた謎と真相、込められた切なる想いとは。

≪dele=ディーリー。校正用語で「削除」の意。≫
(出版社HPより)

足が悪く車椅子生活の坂上圭司に代わって、アシスタントとして雇われた真柴祐太郎が依頼人の死を確認し、それを受けて圭司が依頼人の指定したデータを削除するという役割分担になっています。

所長の坂上圭司が機械的に依頼人のパソコンやスマホにアクセスしてデータを削除するというスタンスに対して、新入りの真柴祐太郎は遺族など残された人たちにとって必要なものではないかと考えて背景を探ろうとします。

様々なデータが遺されていて、依頼人の想いが明らかにされるとともに残された人たちの想いもまた描かれます。
テーマに比べて重くならないのはデジタル(圭司)とアナログ(祐太郎)のバランスがいいんでしょう。

シリーズ化されているので、続編も楽しみです。圭司や祐太郎の過去なども明らかにされるのでしょう。


絲山秋子さんの『沖で待つ』も同じようなシチュエーションでしたが、隔世の感があります。

テレビドラマがやってたんですね。知らなかった。

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吉田修一さん「橋を渡る」 [本☆]


橋を渡る (文春文庫)

橋を渡る (文春文庫)

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/02/08
  • メディア: 文庫



うー、なにが言いたかったのかさっぱりわからない作品でした。

「春-明良」「夏-篤子」「秋-謙一郎」「そして、冬」「エピローグ」という章立てになっています。

新次元の群像ドラマ、ここに誕生!
ビール会社の営業課長、明良。部下からも友人からも信頼される彼の家に、謎めいた贈り物が?
都議会議員の夫と息子を愛する篤子。思いがけず夫や、ママ友の秘密を知ってしまう。
TV局の報道ディレクター、謙一郎。香港の雨傘革命や生殖医療研究を取材する。結婚を控えたある日……
2014年の東京で暮らす3人の選択が、未来を変えていく。
(出版社HPより)

「春」「夏」「秋」は2014年の出来事が登場人物たちの日常とともに描かれます。
そして「冬」は70年後の世界が描かれます。

サラリーマン、都議会議員の妻、テレビ局のディレクターとつなぐ章は群像劇といえるかもしれません。それぞれが心配事をかかえ、ディレクターの謙一郎に至っては取り返しのつかないことを起こしてしまいます。

どうなるんだ、とページを繰ったら70年後に飛んでいる謙一郎が見た世界。

格差、現代の奴隷制度などを描こうとしているのかもしれませんが、なんだかとっ散らかった印象しか残りませんでした。
(一応、エピローグでそれまでの様々を回収しているんですが「それじゃない」感が)

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三崎亜記さん「チェーン・ピープル」 [本☆☆]


チェーン・ピープル (幻冬舎文庫)

チェーン・ピープル (幻冬舎文庫)

  • 作者: 三崎 亜記
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/10/09
  • メディア: 文庫



三崎亜記さんらしさが詰まった短編集です。
特異な設定の世界なのに現実世界に通じ、冷徹に描き揶揄する恐ろしい情景が潜んでいます。

「正義の味方-塗り替えられた「像」」「似叙伝-人の願いの境界線-」「チェーン・ピープル-画一化された「個性」」「ナナツコク-記憶の地図の行方-」「ぬまっチ-裸の道化師-」「応援-「頑張れ!」の呪縛-」の6編が収められています。

名前も年齢も住所もまったく違うのに、言動や身ごなし、癖に奇妙な共通点がある。彼らは「チェーン・ピープル」と呼ばれ、定められた人格「平田昌三マニュアル」に則り、日々、平田昌三的であることを目指し、自らを律しながら暮らしているのだ。『となり町戦争』の著者が描く、いまこの世界にある6つの危機の物語。
(出版社HPより)

一人のルポライターがテーマに沿って関係者にインタビューして考察を深めていくという形式になっています。

「正義の味方」は『となり町戦争』を思わせる三崎さんならではの世界が繰り広げられます。
突如として海から現れ町を破壊する巨大な「敵」と、それを阻止する「正義の味方」。日本人なら誰でも知っている特撮ヒーローなんですが、称賛で終わらないのがミソです。
「敵」の定義から所管する省庁のたらい回しから始まって、戦いの最中に「正義の味方」が破壊する損害額の算定が明らかになり、住民の手のひら返しでやがて「正義の味方」は…。

「ぬまっチ」は市非公認のゆるキャラなのに素の中年男、しかも愛想一つなく暴言を放つという異色すぎる設定に初めは笑っていたのですが、その裏に示唆されたある企みに表面だけでは窺い知れないものがあること、そのままを鵜呑みにしてはいけないという警告と捉えました。

「応援」はSNS時代ならではの匿名による悪意と巧妙さを描いた作品です。
誰もが思いがけずにそのターゲットになってしまう怖さがひしひしと伝わってきました。
それだけに終幕の安穏さがなにより代えがたいものに思えました。

三崎ワールドを堪能しました。

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平谷美樹さん「義経暗殺」 [本☆☆]


義経暗殺 (双葉文庫)

義経暗殺 (双葉文庫)

  • 作者: 平谷 美樹
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2018/02/14
  • メディア: 文庫



義経の死にまつわる歴史ミステリです。
単なる犯人捜しにとどまらず、その裏にある様々な歴史上の人物たちの思惑などが明らかにされ、複層的で奥行きのある物語になっています。

1189年、兄頼朝に追い詰められ、平泉に逃げ込んだ義経。頼朝の圧力を受けて、奥州藤原氏・泰衡が衣川で義経を討ち取ったというのが歴史の定説である――しかし、この物語は通説を覆し、義経が妻子とともに自害したところから始まる。ただ、自害とするには現場の状況、義経の心理面などを洞察すれば不自然なことも多い……この謎に「吾妻鏡」に驚異の博覧強記としてその名が上がる、“頭脳の人”清原実俊が挑む。中級の文官である実俊だが、たとえ泰衡相手でも、強気の姿勢を崩さない豪放な性格である。それを苦心して諫めているのが従者の葛丸(男装しているが、実は女性)。泰衡、頼朝の刺客、弁慶、藤原一族。実俊がさまざまな“容疑者”を調べ、推理していく、傑作歴史ミステリー小説。
(出版社HPより)

奥州藤原氏により百年間平和を保たれた平泉を舞台として、歴史的な背景や、朝廷と平氏、源氏、藤原氏の相関などがわかりやすく描かれていて理解が進みます。

その上で探偵役の清原実俊が従者の葛丸や弟の橘藤実昌とともに藤原一族や武蔵坊弁慶ら義経の郎党などに聞き込みをして犯人を探し出します。更には平泉に潜伏する鎌倉方の刺客たちにも目を配ります。
謎解きのプロセスは論理的で、犯行に及んだ背景を含めてすんなり腑に落ちます。

面白いのは清原実俊のキャラクターです。傲岸不遜そのままに平泉の支配者の藤原一族に対してもタメ口を通します。それを従者の葛丸がたしなめるも聞き耳を持たない。
従者の葛丸も、男装をしていますが実は女性。代々清原家に仕える身で、密かに実俊に想いを寄せていますが、そっち方面には鈍感な実俊…というラブコメ的な要素も楽しめます。

事件の鍵が明かされるとともに史実に沿った奥州藤原氏の滅亡と平泉の栄華の終わりが描かれます。

作者の東北への愛と、散っていった者たちへの鎮魂を感じられる作品でした。

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白えび亭の白えび天丼 [お店]

東京駅地下の東京駅一番街にある白えび亭でランチをいただきました。
富山県産(一部、日本海産)の海鮮料理がいただけます。

http://www.shiroebiya.co.jp/guidance/tokyo.html

看板メニューの白えび天丼をいただきました。
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さくっとした衣にふわりと香る白えびの風味と甘みが美味しいです。
富山県産のお米のもっちり感とのコントラストもいいです。

おまけ(?)の白えびせんべいは持ち帰っていただきました。
伊豆や静岡で買える桜えびのせんべいのはっきりした風味とは違って淡い風味がいいですね。

ご馳走様でした。

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垣根涼介さん「室町無頼」 [本☆☆]


室町無頼(上) (新潮文庫)

室町無頼(上) (新潮文庫)

  • 作者: 垣根 涼介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/01/27
  • メディア: 文庫



室町無頼(下) (新潮文庫)

室町無頼(下) (新潮文庫)

  • 作者: 垣根 涼介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/01/27
  • メディア: 文庫



室町時代末期、応仁の乱より少し前に起こった土一揆を描いた歴史小説です。
思っていた物語と違った。。。

応仁の乱前夜、富める者の勝手し放題でかつてなく飢える者に溢れ返った京の都。ならず者の頭目ながら骨皮道賢は権力側に食い込んで市中警護役を任され、浮浪の徒・蓮田兵衛は、ひとり生き残った用心棒を兵法者に仕立てようとし、近江の古老に預けた。兵衛は飢民を糾合し、日本史に悪名を刻む企てを画策していた……。史実に基づく歴史巨篇。
(出版社HPより)

階層が固定され、格差や貧富の差が拡大している時代背景は現代と通じるものがあるかもしれません。それだけに動乱の時代を若い才蔵がどうやって生き抜いていくのかという興味があったのですが、後半から物語は期待と違ったものになりました。

道賢のように300人の極道者を手下に伏見稲荷大社を根城にして室町幕府から京の警護を請け負いながらもとある企みを持ちます。
一方の兵衛は百姓や牢人たちとコネクションを持ちながらネットワークを築き、一揆を起こします。

結局、タイトルにある「無頼」に込められた意味をどう読み取るかだと思いました。
一揆で関所や裕福な商家を襲い、略奪と証文の破棄を指揮し、幕府側と対峙する兵衛ですが、最終的になにを目指していたのかがわかりませんでした。体制転覆を狙っていたのか、下剋上の世の引き金を引いただけなのか。

兵衛や道賢、才蔵に棒術を教え込む唐崎の老人、敵役の僧兵の曉信、芳王子など才蔵を取り巻く大人たちが魅力的に描かれています。

垣根さんがインタビューで「真の社会変革はアウトサイダーにしか出来ない」と言っていますが、そのまま現代日本に置き換えることが可能かどうか、については考えてしまいます。

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柏井壽さん「京都下鴨なぞとき写真帖」 [本☆]


京都下鴨(しもがも)なぞとき写真帖 (PHP文芸文庫)

京都下鴨(しもがも)なぞとき写真帖 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 柏井 壽
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2018/07/09
  • メディア: 文庫



ガイドブックを小説にしてみました、といったような、京都の観光名所とグルメ(実在のお店が登場)に謎解きを絡ませた短編集です。
半日で読み終わってしまうほど、お手軽に読めます。

「大原のもみじ」「雪の千本鳥居」「天神さんの梅」「円山の枝垂れ桜」「糺の森の恋」の5編が収められています。

彼のカメラに写るのは、四季の風景と美味しいもの、そして迷える人の心……。『鴨川食堂』で人気の著者による京都の名所、グルメ情報満載の新スタイル小説誕生!
京都の老舗料亭〈糺ノ森山荘〉の八代目当主・朱堂旬は、ふだんは冴えない風貌で、自転車にまたがる姿はどうみても下働きの従業員。ところが彼は、人気写真家・金田一ムートンというもう一つの顔をもっていた――。秋の大原、どこか寂しげな着物姿の女性が向かうのは山中の来迎院。彼女にカメラを向けたムートンがファインダー越しに見抜いた真実とは?
(出版社HPより)

うーん、登場人物に厚みが感じられませんでした。
主人公はやたらとスーパーマンのように描かれますが、全く素性が知れません。番頭頭(ばんとうがしら)は元貴族の家柄で一人だけ色の違う法被を着ていますが、支配人らしい仕事っぷりが垣間見えません。(まあ、営業中の描写がないのでしっかり締めているのでしょうが) 主人公の妻で朱堂家の跡取りの女将は外商と称して常に不在だし。

こんなお店が実在したら従業員が次々辞めていくか、やりたい放題になるように思います。

謎解きも軽めのもので、『鴨川食堂』シリーズほどは人情味も感じなくて物足りないです。

朱堂旬が入るお店は実在するのですが、彼が当主を務める老舗料亭の糺ノ森山荘は実名じゃないんですね。まあ、下鴨神社近くにあるということで想像はつきますが、了承は得ているのでしょうか。

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山田正紀さん「カムパネルラ」 [本☆☆]


カムパネルラ (創元SF文庫)

カムパネルラ (創元SF文庫)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/02/28
  • メディア: 文庫



本当に久しぶりに山田正紀さんの本を手に取りました。
「何度も改稿される『銀河鉄道の夜』の世界に僕は迷い込んだ」という惹句通りのSFミステリです。

十六歳のぼくを置いて、母は逝った。研究者だった母は、現政権の思想教育の要となっている宮沢賢治作品―とりわけ『銀河鉄道の夜』を熱心に研究し、政府が否定する「第四次改稿版」の存在を主張していた。遺言に従い、遺灰を携え花巻へ行ったぼくは、ふと気がつくと土砂降りの中、賢治が亡くなった昭和八年九月二十一日の二日前に転移していた。いまなら彼の死を阻止できるかも知れない―その一念で辿り着いた賢治の家でぼくを迎えたのは、早逝したはずの宮沢トシと、彼女の娘「さそり」だった…永遠に改稿され続ける小説、花巻を闊歩する賢治作品の登場人物―時間と物語の枠を超えた傑作長編SF!
(「BOOK」データベースより)

『銀河鉄道の夜』は第3次稿と4次稿との間で大きな改稿があるそうです。
物語では思想教育を強化する政権によって『銀河鉄道の夜』が利用され、第4次稿は存在しないものとされています。第3次稿と4次稿との間の溝━政権にとって必要不可欠な━が物語のポイントになっています。

花巻を訪れた主人公は時空を遡り、更には「ジョバンニ」と呼ばれ、おまけにカムパネルラ殺しの嫌疑をかけられます。
賢治の妹のトシ(「永訣の朝」ですね)が生きていて、「さそり」というトシの娘が存在して、更には風野又三郎が登場します。
ただのタイムスリップものではなく、昭和8年(1933年)の東北地方の風景に、『銀河鉄道の夜』の世界が溶け込んでいる展開に初めは戸惑いましたが、物語が進むにつれてどんどん引き込まれていきました。

ただ、昭和8年の花巻と近未来と、『銀河鉄道の夜』の世界との展開がめまぐるしく理解が追い付かない部分がありました。

宮沢賢治の思想の変遷が『銀河鉄道の夜』の改稿に表れているようで、いつか読んでみたいと思います。


作中の、政府が標榜する「思い出そう、美しい日本」というスローガンとか、総理大臣の顔を大写しにしたポスターなんて、現実とリンクするように思えてその薄気味悪かったです。
作者の意図したものはなんだったんだろう。

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