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道尾秀介さん「風神の手」 [本☆☆]


風神の手 (朝日文庫)

風神の手 (朝日文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2021/01/07
  • メディア: Kindle版



「予想だにしていなかった」「そんなつもりじゃなかった」ような出来事が歴史や人生を変えてしまうことってあります。
それを「風神の手」に例えて物語を紡ぎだすのは道尾さんならではです。

「心中花」「口笛鳥」「無常風」「待宵月」の4編が収められています。

読み進めるごとに反転する出来事の〈意味〉
その鍵を握るのは、一体誰なのか――

遺影専門の写真館「鏡影館」。その街を舞台に、男子小学生から死を目前に控えた老女まで、様々な人物たちの人生が交差していく――。
数十年にわたる歳月をミステリーに結晶化する。
(出版社HPより)

ある小さな町の、遺影専門の写真館で行き会った人たちの口から語られる故人や当人の出来事がそれぞれの短編を通してエピローグへと収束していきます。

いくつもの出来事と人々の思いが絡まりあい、ときに干渉し、影響を与えながら数十年に亘って年月を積み重ねていきます。
変容するもの、変わらず根底にあるものが決してドラマチックではないですが、「そうあるもの」として物語られます。

「もしも…」を想像しながら読み進めるのも楽しいかもしれません。

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乾くるみさん「カラット探偵事務所の事件簿3」 [本☆☆]


カラット探偵事務所の事件簿 3 (PHP文芸文庫)

カラット探偵事務所の事件簿 3 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 乾 くるみ
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2020/11/17
  • メディア: Kindle版



「謎解き専門」を謳う探偵事務所に持ち込まれるミステリのシリーズ第3弾です。

「秘密は墓場まで」「遊園地に謎解きを」「告白のオスカー像」「前妻が盗んだもの」「次女の名前」「真紅のブラインド」「警告を受けたリーダー」の7編が収められています。

「謎解き専門」を謳うカラット探偵事務所。父親の墓に人知れず花を供える怪しい墓参者の正体を追う「秘密は墓場まで」事件、「謎を“作ってほしい”」という不思議な依頼に挑む「遊園地に謎解きを」事件など、日常に潜む些細な謎や奇妙な謎を、所長の古谷と助手の井上が鋭い推理で解き明かす!
ミステリの名手による大人気シリーズ、8年振りの最新作にして待望の第三弾。
(出版社HPより)

前作から時間が経ってしまっていたので所長と助手の関係性を忘れていたのですが、シンプルにミステリを楽しめました。

どんな些細に思えることでも当人が引っ掛かってしまうと謎になるんですね。
なかなか奥深いものがあります。

乾くるみさんらしいどんでん返しが仕掛けられているのが楽しいです。

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乾くるみさん「物件探偵」 [本☆☆]


物件探偵(新潮文庫)

物件探偵(新潮文庫)

  • 作者: 乾くるみ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/12/23
  • メディア: Kindle版



こういう探偵もあり?

「田町9分1DKの謎」「小岩20分一棟売りアパートの謎」「浅草橋5分ワンルームの謎」「北千住3分1Kアパートの謎」「表参道5分1Kの謎」「池袋5分1DKの謎」の6編が収められています。

利回りのマンションを手に入れたはずが、オーナー生活はなぜか4ヵ月で終了。新幹線の座席が残された部屋、HDDから覚えのない録画が流れたり、バルコニーに鳩の死骸を見つけたり。全て何者かの嫌がらせなのか? 格安、駅近、など好条件にも危険が。事故物件をチェックしただけでは見抜けない「謎」を宅地建物取引を極める不動尊子(たかこ)が解明。物件×人を巡る極上ミステリー6話。
(出版社HPより)

よくこんな題材を見つけたなーと感心しました。

「部屋が泣いてます」というセリフとともに現れる不動尊子という女性が探偵役です。
「人から不動さんと呼ばれてます。それが不動産屋の不動産と同じ音であることに縁を感じ、宅建の資格を取ったのが十五才、不動産屋に勤めだし、おかしな症状が出始めて、不動産の気持ちがわかるようになりました」と続けて、各章の登場人物である住民に掛けられた罠を暴き、解決に導きます。

宅地取引に関する専門的な話や制度上の隙間を突いた詐欺のような取引などが不動尊子によって明らかにされます。

へぇーと感心することもあるのですが、ある日突然不動尊子が現れたらイヤだなぁ、とも思いました。

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貴志祐介さん「ミステリークロック」 [本☆☆]


ミステリークロック 「防犯探偵・榎本」シリーズ (角川文庫)

ミステリークロック 「防犯探偵・榎本」シリーズ (角川文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/11/21
  • メディア: Kindle版



防犯探偵・榎本径シリーズです。青砥純子のトンチンカンぶりに拍車がかかっています。

短編「ゆるやかな自殺」と長編「ミステリークロック」が収められています。

人里離れた山荘での晩餐会。招待客たちが超高級時計を巡る奇妙なゲームに興じる最中、山荘の主、女性作家の森怜子が書斎で変死を遂げた。それをきっかけに開幕したのは命を賭けた推理ゲーム!
巻き込まれた防犯コンサルタント(本職は泥棒!?)の榎本と弁護士の純子は、時間の壁に守られた完全密室の謎に挑むが......(「ミステリークロック」)。
題作ほか計2編収録。『コロッサスの鉤爪』と2冊で贈る、防犯探偵・榎本シリーズ第4弾。
(出版社HPより)

表題作の「ミステリークロック」はトリックが非常にわかりやすい形で示唆されていますが、仕掛けを見抜くのは難しかったです。
時間軸と空間の関係が複雑で図示されないと理解するには難しいように思います。

青砥純子がぶっ壊れてないか? それを相手にする榎本径の眉間の皴が目に浮かぶようです。
凸凹コンビの掛け合いが楽しいです。

「ゆるやかな自殺」はドラマで映像化されていましたね。自粛期間中に再放送されていたので録画して楽しみました。
シーズン2やらないかなぁ。嵐・大野君次第なんだよね。

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千早 茜さん「クローゼット」 [本☆☆]


クローゼット (新潮文庫)

クローゼット (新潮文庫)

  • 作者: 千早 茜
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/11/28
  • メディア: 文庫



補修士という仕事があるんですね。

十八世紀のコルセットやレース、バレンシアガのコートにディオールのドレスまで、約一万点が眠る服飾美術館。ここの洋服補修士の纏子(まきこ)は、幼い頃の事件で男性恐怖症を抱えている。一方、デパート店員の芳(かおる)も、男だけど女性服が好きというだけで傷ついた過去があった。デパートでの展示を機に出会った纏子と芳。でも二人を繋ぐ糸は遠い記憶の中にもあって……。洋服と、心の傷みに寄り添う物語。

『冷静と情熱のあいだ』では絵画の修復士という職業を知りましたが、歴史的な服を傷みから救う補修士という職業まっであるとは、世の中は知らないことだらけです。

芳、纏子、晶という性格の異なる3人の男女を中心として洋服を媒介にして物語が進みます。
また、彼らの周囲のベテラン補修士たちや老カメラマンが実にいい歳の取り方をしていて憧れます。

青柳服飾美術館に収蔵されている欧米を含む大量の歴史的な洋服の数々を背景にした膨大な知識や補修技量などが物語の中に溶け込むように必然性をもって語られるさまは千早さんの筆力や情熱を感じます。

芳の幼少期にクローゼットの中で見た光景が纏子との関係性を物語ることは容易に想像がついたのですが、実際に芳と纏子の過去と現在が繋がるシーンは胸が熱くなりました。

生きづらさを感ぜずにはいられない現代において、心の拠り所を見つけるヒントを得たようにも思いました。

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江中みのりさん「時は黙して語らない-古文書解読師・綱手正陽の考察」 [本☆☆]


時は黙して語らない 古文書解読師・綱手正陽の考察 (メディアワークス文庫)

時は黙して語らない 古文書解読師・綱手正陽の考察 (メディアワークス文庫)

  • 作者: 江中 みのり
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: 文庫



古文書解読師という魅力的な副題に惹かれて読んでみました。

古文書に傾倒し、周囲から《解読師》と呼ばれる歴史学専修の院生・綱手。研究室で見つかった古文書の返却を任じられた綱手は、瀬戸内海の小さな島を訪れる。同行者のトラブルメーカー・相馬に振り回されつつ返却を済ませた綱手だが、連続殺人事件に遭遇してしまい……。
島に伝わる『白妙姫伝説』を模した殺人、白妙姫の生まれ変わりと信奉される少女、内容が欠けた謎の手記――。
綱手は古文書を読み解き、歴史の陰に隠された真実に光を当てる。
物憂げな《解読師》が紡ぐ、古文書ミステリ!
(出版社HPより)

瀬戸内の島、島に伝わる伝説、旧家…横溝的要素がありますが、そのレベルには至らず。それは高望みというものです。

残念なのは真犯人が早めに、動機も含めてわかってしまったこと。
そして、探偵役は主人公の綱手ではありません。これも残念。
友人の相馬が探偵役ですが、綱手はその考察に深みを与えます。これが意外と新鮮でした。

単なるミステリではなく、古文書解読を通じて過去と現在を繋ぎ、島の人たちを前向きに解決するところに面白さを感じました。

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畠中恵さん「むすびつき」 [本☆☆]


むすびつき(新潮文庫)【しゃばけシリーズ第17弾】

むすびつき(新潮文庫)【しゃばけシリーズ第17弾】

  • 作者: 畠中恵
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/11/30
  • メディア: Kindle版




生まれ変わり、輪廻転生をテーマにしたシリーズ第17弾です。

「昔会った人」「ひと月半」「むすびつき」「くわれる」「こわいものなし」の5編が収められています。

若だんなは、前世でどんな人だった? 若に会いたい、とつぶやく玉の付喪神。見覚えがあるという貧乏神の金次は、合戦の時代に出会った“若長(わかおさ)”のことを語り始める。鈴彦姫は、縁のある神社の宮司が、一太郎に生まれ変わったのでは、と推理する。さらに、三百年前に前世の若だんなに惚れていたという麗しい鬼女まで現れ――。輪廻転生をめぐる全5話を収録、人と妖との絆が胸に沁みる第17弾。
(出版社HPより)

長くても数十年の人生の人間と、永遠ともいえる(付喪神がそうともいえませんが)命の妖たち。
そういえばそんな話もあったような気がします。
『えどさがし』でしたか。

人と妖のまじわりがはるか昔から続いていたという、輪廻転生によって再び出会うことを信じて妖たちは人の世を生きる。

なんだか切ないように思うんですが、それは人間の命の尺度だからでしょうか。

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大山 誠一郎さん「アリバイ崩し承ります」 [本☆☆]


アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

  • 作者: 大山誠一郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2019/11/25
  • メディア: 文庫



テレビドラマの原作と知り、読んでみました。キャラクター設定や時乃の扱いはドラマのほうがいいですね。

「時計屋探偵とストーカーのアリバイ」「時計屋探偵と凶器のアリバイ」「時計屋探偵と死者のアリバイ」「時計屋探偵と失われたアリバイ」「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」「時計屋探偵と山荘のアリバイ」「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」の7編が収められています。

美谷時計店には、「時計修理承ります」だけでなく「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。「時計にまつわるご依頼は何でも承る」のだという。難事件に頭を悩ませる捜査一課の新米刑事は、アリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ、山荘の時計台で起きた殺人のアリバイ…7つの事件や謎に、店主の美谷時乃が挑む。あなたはこの謎を解き明かせるか?
(「BOOK」データベースより)

「時計にまつわるご依頼は何でも承る」という祖父のポリシーを受け継いだ美谷時乃が、ひょんなことから美谷時計店とアリバイ崩しを知った新米刑事が持ち込む様々な難事件を解き明かします。

ミステリですので、あくまで「アリバイ崩し」がメインです。

新米刑事の「僕」が捜査情報を一般人に明かしてしまうという公務員倫理規程違反に悩みながらも迷宮入りしかけた事件を解決すべく時乃に「アリバイ崩し」ときには「アリバイ探し」を持ち込みます。
事件の経緯の説明で5分の4ほどのボリュームを使い、時乃が2行で解決、残りはエピローグです。

「アリバイ崩し」をパズル遊びと捉えればこの展開でもいいと思うんですが、物語を楽しみたいので個人的にはもう少し人を描いてほしいなと思います。
(その意味ではドラマのほうが人物造形はしっかりしていたかなと思います)

続編もあるようなので期待します。

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五十嵐貴久さん「波濤の城」 [本☆☆]


波濤の城 (祥伝社文庫)

波濤の城 (祥伝社文庫)

  • 作者: 五十嵐貴久
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2020/10/15
  • メディア: 文庫



消防士・神谷夏美シリーズ第2弾です。第1弾ほど縦横無尽な活躍はないです。

“神戸発釜山行き、豪華客船レインボー号で行く魅惑のショートクルーズ”―五日間の休暇がとれた銀座第一消防署の消防士・神谷夏美と柳雅代は、贅沢な船旅を張り込んだ。全長三百メートル、十一階建ての威容に圧倒されるも、非常設備の不備や通路の狭さなどに不安を覚える。一方、船長の山野辺は、経営難の会社から、種子島にカジノを誘致する計画の第一人者・民自党の石倉代議士を接待し、新航路を獲得するよう厳命されていた。山野辺は、支援者のために洋上で花火を打ち上げたいという石倉の希望に添うべく種子島沖へ航路を変更。だが、数時間後、異音と共に排水が逆流し船が傾斜。その上、南洋にあった巨大台風が大きく進路を変え、後方に迫り始めていた…。21世紀の『ポセイドン・アドベンチャー』、ここに誕生!
(出版社HPより)

超高層ビルの次は巨大な豪華客船が舞台です。

エンジン故障から巨大台風が近づきつつある海に漂流する豪華客船、更には火災が発生して━━という逃げ場のないシチュエーションに主人公の消防士の神谷夏美が遭遇します。ただ、今回は頼りになる消防士仲間は上司の柳雅代だけ。

とはいうものの、船には救助ボートというものがあるわけで、まあ、それもxx(自粛)

因果応報というキャラが少ないせいもあり、カタルシスを感じることはありませんでした。(前作は欲望むき出しキャラが多くて変に酔いそうだったけれど)

システムや自分の経験への過信、しがらみに囚われた柔軟性にかける判断というのは自戒の念を強くしました。

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森絵都さん「出会いなおし」 [本☆☆]


出会いなおし (文春文庫)

出会いなおし (文春文庫)

  • 作者: 森 絵都
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/04/17
  • メディア: Kindle版



久しぶりに森絵都さんの作品を読みました。「らしい」としかいいようのない短編集です。

「出会いなおし」「カブとセロリの塩昆布サラダ」「ママ」「むすびめ」「テールライト」「青空」の6編が収められています。

イラストレーターの時子は、かつて共に仕事をした編集者のナリキヨさんから、仕事の依頼をふたたび受ける。年を重ねて時子が得た感慨とは(「出会いなおし」)。ほろ苦い思い出のある小学校の同窓会に出て知る、意外な事実(「むすびめ」)。人々の出会いと別れ、そして再会を描く珠玉の六篇をおさめた短篇集。
(「BOOK」データベースより)

「人との出会い」をテーマにした様々なシチュエーションでの短編集です。

年を空けての仕事の依頼で何度も「再会」するイラストレーターと編集者、デパ地下のサラダを巡っての中年主婦の孤独な戦い、小学校の頃の苦い思い出を引きずったまま同窓会に出席した主人公、など簡単に「出会い」といってもいろいろな切り口があるんだな、と思いました。

いろんな味わいのできる短編集でした。

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