SSブログ

伊坂幸太郎さん「グラスホッパー」 [本☆☆☆]

グラスホッパー

グラスホッパー

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 文庫

伊坂さんの作品を文庫が出る毎に読んでいるのですが、傾向として暴力を肯定するというか、暴力を振るったことに対して悔悟することのない登場人物が多く登場することが多くなっているように思えます。
デビュー作の「オーデュボンの祈り」で島の規律を保つために殺人を繰り返す「桜」のように必然にかられて暴力を繰り返すそれとは対照的なものです。
勧善懲悪とか正義を振りかざすとか、およそ現実離れしたことをいうつもりはありませんが、暴力性の度合いが増えてきているように思えます。
この作品では「ハードボイルド」と銘打ってはいますが、ハードボイルド=暴力とも限らないのでなおさらそう思いました。

ストーリイは「鈴木」「鯨」「蝉」という3人の視点を順番に繰り返し、次第に彼らが接近し接触し絡み合って結末を迎える構成になっています。
「鈴木」は平凡な社会人だったのを、妻を殺された復讐に違法な薬物を売りさばく会社に潜り込みますが、目の前で復讐相手を『押し屋』という殺し屋に殺され、後を追います。
「鯨」は相手を自殺させる超能力(?)を持った殺し屋です。殺した相手の亡霊に悩まされ、過去を清算すべく1回だけ失敗した仕事を持っていかれた『押し屋』を始末しようと動きます。
「蝉」はナイフ使いの殺し屋で、若く口数の多いキャラクターは殺し屋とはほど遠く思えますが、なんの躊躇いもなく仕事を遂行します。他に先駆けて『押し屋』を殺すことで名を挙げようとします。

他の作品同様、軽妙な会話やストーリイ展開は巧みで、「鈴木」「鯨」「蝉」が次第に接近するだけでなく、ミステリアスな『押し屋』と鈴木とのやり取りや鈴木の属する組織や上司の動きなども収斂されていきます。この辺の「読ませる」のはさすがだな、と思いました。
また、裏の世界-「鯨」や「蝉」や「押し屋」だけでなく、「劇団」や「スズメバチ」などの呼び方も独特で面白かったです。

タイトルの「グラスホッパー」…「バッタ」の意味ですが、なぜ「バッタ」?と疑問だったのですが、その意味も明かされ、なるほどーそういう意味だったのか、と納得しました。と同時に、このストーリイにおける暴力性も必然だったことを理解しました。けれども、それが伊坂さんが主張したかったことだったのかどうかについては、どうもそのようには感じられませんでした。ミステリという枠の中でそれを捉えようとするほうが問題があるのかもしれませんが。

ラストは鈴木が新たな一歩を踏み出すところで終わるのですが、やっぱり読後感はあまりしっくりこなかったです。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。