樋口有介さん「ぼくと、ぼくらの夏」 [本☆☆☆]
米澤穂信さん「氷菓」でも書きましたが、ベースになる部分が一貫していると読み手としては安心感があります。(その一方で、マンネリ化のリスクもあるわけですが)
樋口有介さんもその意味では個人的に外れのない安心感満載の作家です。このデビュー作で既に「柚木草平シリーズ」の原型といえるような軽妙なやりとりがありながらも、青春ミステリらしいほろ苦い結末の作品になっています。
本作>「風少女」>「柚木草平シリーズ」という順に主人公の年代が連なっている(青年時代が抜けてる…)取り方もできると思います。
春一は高校2年生。離婚した刑事の父と二人暮しです。夏休みのある日、父からクラスメイトが自殺したことを教えられます。その翌日、街でクラスメイトの酒井麻子と偶然に会い、自殺の一件を教えると、中学からの親友だったという麻子にひっぱられるようにして自殺の背景を調べるようになります。ところが自殺の原因となるような原因が家族にも思い当たらないということで本当に自殺だったのかという疑問が浮かび上がってきます。更に妊娠していたという事実が判明し、素行のよかった彼女の行動にも疑問符が付き、誰がその相手だったのか、という調査にも乗り出します。
この作品でも春一は一匹狼で、クールでいるのですが、ヤクザ(といっても一昔前のテキ屋稼業)の娘の酒井麻子に引っ張りまわされます。この辺りのオンナに弱いところは樋口さんのスタイルなのでしょうか。徹底してハードボイルドに徹しきれないところが主人公が高校生らしいところなのかな、とも思います。また、意味もなく登場する女性(麻子、担任の教師)がおしなべて美人揃いなところも。
また、春一の父や、ちょい役で出る「酒井組」の古参の秀さんなどボケまくりのキャラクターがいいアクセントになっています。
軽妙なセリフや描写が楽しめる反面、結末は苦いものになります。まあ、中盤で「なにかあるな」と勘付かせるシーンがありますので結末に意外性はありませんでしたが。
ストーリイ、キャラクター、雰囲気それらを含めて味わいのある青春ミステリだと思います。
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