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池上永一さん「シャングリ・ラ」 [本☆☆☆]


シャングリ・ラ 上 (角川文庫)

シャングリ・ラ 上 (角川文庫)

  • 作者: 池上 永一
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/10/25
  • メディア: 文庫



シャングリ・ラ 下 (角川文庫)

シャングリ・ラ 下 (角川文庫)

  • 作者: 池上 永一
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/10/25
  • メディア: 文庫



【シャングリラ(Shangri-La、香格里拉)】①小説『失われた地平線』の中に出てきた理想郷(ユートピア)の名称。②転じて、一般的に理想郷と同義として扱われている。

池上永一さんの小説はどんどん長くなっていく…。まあ、読み飛ばしてもいいような場面もかなりあるんですが、たまにツボに入ったりするのでその見極めが難しいです。

いままでは沖縄(おそらくは石垣島)を舞台にした作品が多かったのですが、この作品は近未来の東京が舞台です。
毎度のことながら、池上さんの想像力はこちらの想像をはるかに超えています。それもただ荒唐無稽なだけでなく、ベースがあって、それを大きく飛躍させる想像力だけに読むほうとして引き込まれてしまうんじゃないかと思います。

温暖化の進んだ世界で、日本政府は熱帯と化して殺人的なスコールの続く東京の上に巨大な人口地盤を作り移住を試みます。山手線の面積とそれを支える13本の巨大な支柱を持ち、雨雲を超える高さに何層もの地盤を持つ巨大な積層建造物--アトラスです。
各国に炭素削減を課せられた世界で、移住後の東京の森林化を図ります。しかし、アトラスに移住できた人は一握りの人間だけで、残された多くの人々は住居を猛烈な勢いで繁茂拡大する森林に奪われて難民化してしまいます。
そんな20万人もの難民を受け入れ、新大久保を拠点とする反政府ゲリラのメタル・エイジに、新総統が就任します。不思議な能力を持つ18歳の北条國子です。
政府の東京森林化計画に反対し、ゲリラの撲滅すら行う政府に対して、打倒アトラスを掲げて戦います。

…という粗筋では書ききれないほどに、多くの登場人物が絡まりあい、いくつものサブストーリイが展開されます。
そして物語はアトラスの秘密に近づいてきます。

両親を知らない國子を引き取る、初代メタル・エイジ総統の凪子、育ての親のニューハーフのモモコ、モモコに拾われた相撲取りのようなニューハーフのミーコ。
経済炭素という新しい概念に対する投資家(カーボニスト)として、斬新な経済炭素循環システム「メデューサ」を開発し、やがて世界を蹂躙する香凛・チャン・クラリス。
アトラスの新迎賓館に暮らし、牛車で異動する美邦と女医の小夜子。
陸軍の特命を受けて動く草薙少佐。「メデューサ」構築を支援するも、謎の多いアメリカ人銀行家のセルゲイ。
などなど多彩なキャラクターがそれぞれの思惑を抱えて動き・暴れます。
この辺りの無茶苦茶さは『レキオス』をはるかに超えてます。なにせ、國子自身の身長以上もあるブーメランを操り、戦車を両断したり、武装ヘリを撃墜したりするのですから。

また、ゲリラや政府軍兵士はバタバタ死んでいくのに、メイン級はジャック・バウアー並みに死なない ;^^) 小夜子は戦略爆撃機の絨毯爆撃を受けても奇跡的に助かるし、小夜子のライバルである涼子は数百メートルの高さから落ちても、次のシーンでは平気な顔して登場してくるし。荒唐無稽を通り越してます。

そうかと思うと、温暖化対策としての「低炭素社会」を超えた炭素経済システムという考え方や、鉄より軽く強度のある炭素繊維・カーボンナノチューブや巨大な太陽電池パネルを積んで地球に電気をプラズマ転送する人工衛星など最先端の技術を実用化して描かれています。
今夏話題になったゲリラ豪雨も描写としてあり、作品が書かれた頃を考えると先見性があるように思えます。
また、擬装装甲という究極の武器が出てきます。これはすごい。

これも池上さんの作品によくあるのですが、あらゆる描写が「過剰」です。戦闘シーンしかり、(例えば國子とモモコの)会話しかり。
過剰ゆえか、大風呂敷を広げすぎたせいか、結末は少し無理がありますが、希望の持てるエンディングもまた池上さんの作品らしくて少しほろっとさせられました。

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