津本陽さん「覇王の夢」 [本☆☆]
過去の日本において、変革とは外的な圧力や要因なくしては起きなかったように思います。明治維新や第2次世界大戦の敗戦のように。
変革に至らなかったものの、織田信長は既存の権力を否定し、打破し、暦や通貨など領土的な統一だけでなくあらゆる面での変革や統一を目指した人物だと思っています。
この作品は、信長が抱いた構想を史実に沿って描きなぞっています。そこには以前にも以後の為政者も持ち得なかった壮大で現実的な夢がありました。
経済観念に優れていることで関所を廃したり楽市楽座を興したり、兵農分離を推し進めることで足軽など雑兵を包含した機動的な軍団の編成を可能にしたなどあらゆる面での社会構造を変えようとしたこと。
難敵を打破するために革新的ともいえる兵装や戦術を編み出したこと。(武田騎馬隊を壊滅させた有名な戦術の考案は「信長でない」という説もあるそうですが)
日本統一だけでなく、キリスト教宣教師や東南アジア(ルソン・マニラ等)に拠点を設けていた日本人(商人や倭寇)から情報を得、海外に目を向けていたこと。
一方で、7年間もの間、兄弟や叔父との骨肉相食む抗争を繰り広げてきたために猜疑心が強く、家臣に対しても苛烈な仕置きをするという性格も描かれています。
しかし、それが我が身を滅ぼす結果となってしまいます。
フィクション性が少なく、史実通りに進むためにストーリイを楽しむという点での面白さはありませんが、信長がなにを見てなにを展望していたかということがらが壮大で、もしも本能寺の変がなければ--という想像が膨らみ楽しめました。
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