絲山秋子さん「沖で待つ」 [本☆☆]
絲山秋子さんの芥川賞受賞作品です。表題作と「勤労感謝の日」「みなみのしまのぶんたろう」(単行本未収録)の3短編が収録されています。
最初に「勤労感謝の日」を読んで、なんだこりゃ、と思いました。
葬儀の場でセクハラ上司にキレてビール瓶で殴って無職になった主人公が、近所のおばさんの紹介で見合いをするも気色悪い相手に我慢ができずに途中で飛び出して、やさぐれて会社の後輩と呑む、という粗筋なんですが、全般に「悪態ツキ子」ちゃんなんです。「最低」「不細工」「○ソ」のオンパレード。これって文学なんだろうか、と読んでいて悩みました。
ラストでいくらか気分が収まるのですが、ここで読むの止めちゃおうかと思ったほどでした。
「沖で待つ」は一変して(?)、会社の同期のつながりというか友情を描いたものです。「勤労感謝の日」で止めないでよかった。
住宅設備メーカーの営業職で同期として福岡に赴任になった主人公と「太っちゃん」は新入社員で見知らぬ土地に配属された心細さと不安さから連帯感を強めます。そのつながりは主人公が埼玉県に、太っちゃんが結婚して東京に転勤(単身赴任)になっても変わりません。
ある日、主人公と太っちゃんはどちらかが先に死んだら秘密の詰まったパソコンのハードディスクを破壊しようと約束します。ほどなくして太っちゃんは予想もしない事故で死んでしまいます。主人公は太っちゃんとの約束を果たしますが…。
男女の関係に発展しない同期というのはあると思います。それが一緒に苦労した仲であれば尚更です。それは同期以外の先輩後輩でも同じです。
絲山さんの実体験がかなり盛り込まれているんだろうな、と思う愛情を感じました。
「みなみのしまのぶんたろう」は難解というより、わからないです。全てかな文字で書かれていて、一見児童書のようなんですが、児童書で「しっきゃく」はないだろう。となると実験作なんだろうか。おもしろいはおもしろいですが、やはりかな文字は読み難いです。
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