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森見登美彦さん「夜は短し歩けよ乙女」 [本☆☆☆]


夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/12/25
  • メディア: 文庫



森見さんは好き嫌い以前に、読み終えることができるか読み始めで挫折するか両極端な作家だと思います。
(自分は『太陽の塔』は面白かったですが『四畳半神話大系』は挫折しました…)
面白さ、賑やかさ、破天荒さなど、この小説は今まで読んだ森見さんの作品の中で一番だと思います。

京都を舞台に「黒髪の乙女」と彼女に恋する「先輩」をめぐる出来事を描いた4つの中編で構成されるファンタジーです。

第1章 夜は短し歩けよ乙女
第2章 深海魚たち
第3章 御都合主義者かく語りき
第4章 魔風邪恋風邪

春の夜の木屋町から先斗町にかけての酒宴。夏の下鴨納涼古本市。秋の京都大学学園祭。冬の四条河原町。四条河原町以外は観光客にはあまり馴染みのない場所だと思います。そんな場所に天真爛漫な「黒髪の乙女」が訪れて不思議な出来事に巻き込まれます。「黒髪の乙女」の後姿を追う「先輩」も同様に巻き込まれていきます。辻々で出会う「先輩」は「たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返し、そんな「先輩」に「黒髪の乙女」は「奇遇ですねぇ」と返します。果たして「先輩」の想いは届くのでしょうか。

脇役もケッタイな人物揃いです。血も涙もない高利貸しで3階建ての電飾電車に暮らす李白翁、天狗の子孫と称して空中浮遊術を操る樋口さん、大酒呑みの羽貫さん、詭弁部、閨房調査団、パンツ総番長率いる「偏屈王」劇団などなど。
よくまあ…という奇妙な人たちばかりです。それだけに彼らが起こす騒動も想像を絶するおかしなものばかりです。
そんな連中の中で「黒髪の乙女」は群を抜いているかもしれません。天真爛漫で素直で活動的で天然で挙動不審で…が半端じゃないせいでしょう。
対する「先輩」は森見作品ならではの自意識過剰で頭でっかちのおくてな青年です。できることは彼女の後姿を追い求めるだけ。「彼女が後輩として入部してきて以来、すすんで彼女の後塵を拝し、その後ろ姿を見つめに見つめて数ヶ月、もはや私は彼女の後ろ姿に関する世界的権威」という下手するとストーカーです。同級生との「それで、あの子とは何か進展あったの?」 「着実に外堀は埋めている」 「外堀埋めすぎだろ?」会話は電車の中で読んでいて笑ってしまいました。

一番好きなのは第1章の表題作です。お酒を求めて一人で繁華街に繰り出した「黒髪の乙女」が出くわす宴席に次ぐ宴席。変人痴人。幻のお酒「贋電気ブラン」を傾けての李白翁との飲み比べ。読んでいるだけで楽しい呑み会に参加している気分になりました。

印象に残る名言が多いのも特徴です。文庫版では巻末に漫画家の羽海野チカさんのイラストとともに羽海野さんお気に入りの名言がまとめられています。
「諸君、異論があるか。あればことごとく却下だ!」
「恥を知れ!しかるのち死ね!」
「ハッピーエンドだ!! 誰もが赤面することうけあいだ!!」
「自分よ自分、なにゆえ不毛にご活躍?」
「しかしどっこい生きている」

明治・大正期のような独特な文体と抱腹絶倒な展開を楽しんでみてほしいと思います。

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