若竹七海さん「遺品」 [本☆☆☆]
葉崎市という神奈川県下の架空の町を舞台にしたミステリを書いている若竹さんのミステリタッチのホラーです。でも、それほど怖くないです。むしろ哀しさのほうが強かったです。
葉崎市立美術館が閉鎖され失業中の学芸員の「わたし」は、大学時代の先輩であり、大林国際観光グループの創業者の孫でもある大林孝雄から金沢郊外の銀燐荘ホテルの仕事を依頼されます。それはホテル内に女優で作家だった曾根繭子に関する資料室の開設準備でした。曾根繭子は30年以上前に銀燐荘ホテルから失踪し、自殺と噂されていました。
わたしはホテルの従業員であるタケルを助手として膨大な資料の整理にとりかかります。それは繭子のパトロンであり、大林国際観光グループの創業者の大林一郎が収集したものでした。資料は繭子が映画できた衣装や蔵書だけでなく、ストーカーとも呼べるような代物まで収集されていました。
そんな折、繭子が執筆し行方不明となっていた戯曲が発見されます。
やがてホテルに様々な異変が起き始めます。映画の衣装を着た女が目撃されたり、不審火が起きたりします。そして「わたし」は全て戯曲に沿うように事件や事故が起こっていることに気がつきます。
そして大林孝雄から資料室の開設発表会を開くとの連絡がきます。そのツアーには当時の関係者も含まれています。終幕に向かってなにが起きるのか。
ホラーの定番ともいえる薄気味悪い出来事の描写もさることながら、人の心に巣食った狂気に怖さを感じます。若竹さんの作品ではミステリでもそういった仕掛けや描写に怖さを感じます。
じわじわと異変の積み重ねて、場を整えて、一気にクライマックスに突入する展開は抗いようのない流れに巻き込まれるような怖さがありました。そしてラストシーンは一転した物悲しさの読後感でした。
尊大で傲慢な大林孝雄、保身しか考えないホテル支配人、噂好きで身勝手なホテル従業員の日下克枝といったアクの強い面々がストーリイを動かします。主人公の「わたし」が職務に真摯で、彼らによって翻弄されるだけに際立っています。なかでも日下克枝のキャラは強烈です。若竹さんの作品にはこういう厚顔無恥系キャラがよく出る気がします。なにか意趣があるんでしょうか。
ラストはどちらかといえば大人向けファンタジーな印象でした。
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