仲町六絵さん「霧こそ闇の」 [本☆☆☆]
初読みの作家さんですが、戦国時代の大和(今の奈良県)を舞台にしたファンタジーは面白かったです。
ただただ切ない物語です。
天文二年、戦国時代の大和。筒井の里に住む狭霧には、病をもたらす物の怪を退治する不思議な力が備わっていた。その力を知るのは、大名に仕える典医であり夫である義伯のみ。ふたりは支え合いながら病者を助けていた。
しかしある日、主君である筒井順興の末子力丸が重病にかかり命を落としてしまう。それを境に、義伯夫婦と幼い息子鷲王は物の怪のわざわいに見舞われ、やがて筒井氏をめぐる大きな争いへと巻き込まれてゆき――。
(出版社HPより)
伝奇小説ですが、おどろおどろしさはなく、むしろ夫婦愛や親子愛に貫かれた作品になっています。
寺社勢力や武士などの室町時代末期の大和国の政治情勢が簡潔に説明され、筒井家の典医として静かに暮らしていた義伯夫婦が大和国の覇権を巡って起こる騒乱に巻き込まれていく様が描かれていきます。
そこに筒井家の出自が絡み、単なる武力をもってしての権力争いではない伝奇小説としてのストーリイ展開の面白さを満喫できます。
そして、明らかになる狭霧の正体と夫と息子を守るため狭霧が取る行動に、想像はついていたものの、仲町さんの描写力でとても切ない気持ちになりました。
他の作品も読んでみようと思います。
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