東野圭吾さん「人魚の眠る家」 [本☆☆]
東野圭吾さんらしい科学技術ネタをふんだんに盛り込んだ作品です。しかしミステリではありません。
「娘の小学校受験が終わったら離婚する」。そう約束していた播磨和昌と薫子に突然の悲報が届く。娘がプールで溺れた――。病院で彼等を待っていたのは、〝おそらく脳死〟という残酷な現実。一旦は受け入れた二人だったが、娘との別れの直前に翻意。医師も驚く方法で娘との生活を続けることを決意する。狂気とも言える薫子の愛に周囲は翻弄されていく。
(出版社HPより)
医療科学技術の進歩には本当に素晴らしいものがあります。
事故で首から上しか動かせなくなった人が、目の動きだけでキーボードを操作してコミュニケーションを図ったり、本作で登場するような脳からの指示を電気信号による刺激で手足を動かしたりできる技術が開発されています。
咽喉を切開しない人工呼吸技術や磁気刺激装置など、本作も様々な技術を取り上げて一つの物語に仕立てあげてしまう東野さんの真骨頂だと思います。
ただ、「おそらく脳死」という娘を介護するまでの過程は面白かったのですが、逆に「どういう結末になるんだろう」という興味から後半の展開が興趣を削がれました。
そういう気持ちになるのも、この作品がよくできているからなんでしょう。
中盤からは「人の死とは」「生きているとは」といった哲学的とも生物学的ともいえるテーマに比重がかけられていきます。
また、国内で子供の臓器移植例が少なく、数億円という費用をかけて渡米するために寄付を募るというのは新聞記事で見かけます。こういった事柄も物語に取り込んで多面的な作品になっています。
そんな中で娘を思う親の心情が時に彼女をエゴイストにする瞬間の描写が生々しいです。
個人的な感覚としては父方の祖父と同じ意見でしたが、心臓は動いている(生きていると思える)娘を間近で見ている両親の気持ちとの違いは明らかでした。理知的とは違うなにかが。
だからこそ、祖父と父との関係や思いの違いを掘り下げてもよかったのかなとは思いました。
結末が、まあ、こういう形しかないよねというものでしたが、なんかすっきりしない読後感でした。
映画化されています。キャストはイメージ通りですね。
http://ningyo-movie.jp/
コメント 0