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柚月裕子さん「慈雨」 [本☆☆☆]


慈雨 (集英社文庫)

慈雨 (集英社文庫)

  • 作者: 柚月 裕子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/04/19
  • メディア: 文庫



四国の遍路道で過去と向き合う元刑事と、現在進行形で進む少女誘拐殺人事件の捜査が並行して描かれる警察小説です。
ストーリイ展開はやや陳腐ではありますが、それ以上に深い感動を味わえます。

警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、神場の胸には過去の事件への悔恨があった。場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。事件の真相、そして明らかになる事実とは。安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー。
(「BOOK」データベースより)

過去に扱った少女誘拐殺人事件の結末に葛藤する元刑事の神場が妻の香代子と四国遍路の中で自らと向き合うパートと、同時期に起こった少女誘拐殺人事件を捜査する緒方刑事のパートが交互に描かれ、事件の真相に迫っていく展開は緊迫感があります。

神場と緒方は同じ職場の先輩後輩の間柄で、緒方は神場に尊敬の念を抱いていることが伝わってきます。物証の少ない犯行にアドバイスを求められた神場もまた職務に誠実な緒方に対して敬意を抱いていて、信頼し合っている二人の関係が貴いものに思えます。

それだけでなく、夫婦、親子、恋人、上司と部下(神場と緒方、鷲尾捜査一課長と神場、鷲尾と緒方)など様々な関係性が描かれ、そこには深い信頼関係があります。

神場と香代子、娘の幸知の過去が遍路道の最中に回想というかたちで描かれていて、時間軸という深みをもたらしています。

結末は苦いものになるのですが、神場(と香代子)の選んだ決意は潔く、清々しいものでした。
本を読む愉しみを存分に味わえる作品だと思います。

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