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川端裕人さん「川の名前」 [本☆☆☆]

川の名前

川の名前

  • 作者: 川端 裕人
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/07
  • メディア: 文庫

今まで読んだ川端作品の中ではダントツに好きです。

主人公は小学5年生の脩(しゅう)。自然写真家の父と世界中を旅してきて、あちこち転校してきた
のだけれども、今年の夏休みは取材旅行の父とは離れて引っ越してきたばかりの川沿いの街で
過ごそうと思っています。

1学期の終業式の日、教室の窓から望める親水公園になにかの影を見た脩は仲間のゴム丸と
河童とともに謎の生物探しを始めます。
そこで見つけたものは意外なもので、彼らは夏休みの自由研究にその生き物の観察を始めます。

やがてその生き物が川辺の住民の知るところとなり、マスコミが報道し、フィーバーを呼ぶことに
なります。
そんな中、怪我を負い、衰弱した生き物を助けるため河口の水族館を目指し台風で増水した川に
彼らはカヌーを漕ぎ出します。
川を通して少年たちが成長していく物語でもあります。

それにしても、この作品に出てくるテレビ局って…夏に24時間チャリティ特番を組み、タレントが
100kmを走り、揃いのTシャツ(作中では紫でしたが)…川端さんの元勤務先のような気がします。
あまりいいイメージで書かれてない気がしますけど、いいのかな? しかも担当ディレクターが
「やらせ」することも厭わないって…それが彼らの冒険に繋がるわけではありますが。

また、あちこちの川で目撃されたアザラシ騒動にも似たフィーバーぶりが描かれますが、あれって
ニュースで見てるとばからしくなります。幼い子供はともかく、いい年した大人が「xxちゃーん」
なんてねえ。暇なのか、他に愛情の向け処がないのか。野生動物なんだからほっとけっつーの。

タイトルの「川の名前」は、世界の中での自分の居る場所を地理的に表現する術、とでも捉えたら
いいのかな。少し難しいけれど。
自分自身が根無し草のようにあちこちを転々としてきて、今もそうですが、土地に根付くという
感覚があまりないので、その意味で拠り所を持っている人ってすごく羨ましく思います。
そして、都会では川はほとんどが蓋をされて暗渠となっています。「川の名前」を持つことすら
難しくなっています。
ただ、川は海に繋がり、海は世界の川と繋がっているという説明は漠然としてはいるのですが、
世界(というよりも地球といったほうがいいか)との一体感を感じました。
そして、その川元に立っている少年たちに世界はーー未来も--開かれている。

今までの川端作品の登場人物は少年時代の夢を追い続ける大人たちでした。
この作品では小学生たちを主人公にすることでいろいろな意味で自由で無鉄砲さが発揮されて
います。そして少年たちの純真さ。
また、小学生たちの抱く夢がこれまでの作品で登場してきた主人公たちの夢と重なるところも
ファンとしてはうれしいところです。っていうか、この夢って川端さんの夢なのかもしれません。
小学校中高学年の子供たちにも読んでみてほしい本です。

終盤で少しうるっとしてしまいました。電車に乗ってるときじゃなくてよかったー。


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