SSブログ

宇月原晴明さん「黎明に叛くもの」 [本☆☆☆]

黎明に叛くもの

黎明に叛くもの

  • 作者: 宇月原 晴明
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/07
  • メディア: 文庫

宇月原さんの作品は「信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス(http://blog.so-net.ne.jp/tomo_all/2006-04-07)」、「天王船(http://blog.so-net.ne.jp/tomo_all/2006-12-26)」
に続いて3冊目なんですが、時代伝奇小説にはどんどんひきずり込まれていきます。
こんなにわくわくしながら読んだ時代伝奇小説は山田風太郎以来かもしれません。

物語の主人公は松永久秀です。戦国時代末期のこの武将の名を知っている人は歴史好きの方
でもない限りなかなかいないかと思いますが、室町幕府の弱体化を背景に三好氏の側近として
京付近で権勢を振るった人物です。

乱世の梟雄として有名で、「蛇蝎のごとく嫌う」という言葉の「蛇」は斉藤道三、「蝎」は松永久秀を
指すといわれています。
斉藤道三は美濃の土岐氏に取り入り、土岐氏を追放して美濃の国主になりました。
松永久秀についてはこちらを参照ください。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E6%B0%B8%E4%B9%85%E7%A7%80

物語は少年時代の斉藤道三と松永久秀が互いに天下を取るためにそれぞれの道を歩み始める
ところから始まります。
斉藤道三・松永久秀ともに出自が不明とされているのですが、本書では「波山の老師」のもとで
暗殺術を学んだ兄弟弟子とされています。「波山」とはイスラム教異端派でヨーロッパで
「暗殺教団」と呼ばれ、蒙古軍に滅ぼされた一族の末裔だとする設定です。また、幻術師として
数々の史書に登場するの果心居士とは「波山の法」を修めた老師であり、それを引き継いだ
松永久秀であるという発想の奇抜さにはやられました。

前半は斉藤道三が美濃国主になり、やがて息子の義竜と対立し敗れるまでが描かれます。
そこでは斎藤家の縁戚であり、後半のキーマンとなる明智光秀が登場します。

後半では斉藤道三が後継者と思い定めた織田信長の台頭と、その圧倒的な勢いの前に恭順の
意を見せながらも武田信玄、上杉謙信、石山本願寺、毛利輝元などと連携して信長を潰すべく
画策する久秀が描かれます。

なんといっても見所(読み所?)は名作と名高い平蜘蛛の茶釜が紡ぎだす幻想の世界と久秀が
駆使する幻術、そして関節球体によりあらゆる動作が可能な等身大の少女を模した
傀儡人形'果心'の活躍です。当初は傀儡操りの術で久秀が操っているときのみ動き、走り、
跳ね、喋っていた人形がいつの間にか自我のようなものを持ち始めて自在に動き始めるところは
愛らしくもあり、おかしささえありました。'果心'なくしてこの物語は成立しなかったでしょう。

織田信長、三好長慶、足利義輝、武田信玄、上杉謙信など、この時代を彩った名将がほとんど
フルキャストで登場する豪華さとそれを影で操る妖人 松永久秀という展開は史実に忠実な
歴史ものとは違った楽しみがありました。

タイトルの「黎明に叛くもの」とは、物語中では明けの明星を指します。朝日(日輪)が星々の光を
消してしまうのに抗うようにして最後まで消え残っているところから、いずれは歴史上の敗者として
消え行く運命ながらも覇者に対して敢然と立ち向かうさまを表しているそうです。
まさに松永久秀の一生に相応しいタイトルだと思いました。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。