加納朋子さん「レインレイン・ボウ」 [本☆☆☆]
高校時代の弱小ソフトボール部のメンバーが亡くなった--それまで疎遠だったメンバーが
通夜の席に集まります。ただ一人を除いて。
そんな始まりから二十代半ばになったメンバー一人一人の日常が描かれる7つの短編です。
高校卒業後、それぞれの道を歩み始めた彼女たちは、専業主婦、看護師、保育士など忙しい
日々の中でともすれば自分を見失い、先の見えないままに過ぎていく日常に焦りを感じたて
いたりもします。多少ステレオタイプな気がしないでもないですが、毎日を誠実に生きようとする
彼女たちは今までの加納さんの作品に共通するしなやかさとつよさを感じます。
個々の短編で起きる事件の謎解きに加えて、連作としての謎(メンバーの死の真相、通夜に
現れなかった一人の行方)が収斂していく結末は相変らずうまいなぁ、と思ってしまいました。
単純にミステリという謎解きだけでなく、「人間って決してモノトーンじゃない。人によって見え方の
違う色が虹みたいに重なり合っている」という隠されたテーマが「レインレイン・ボウ」という
タイトルにも個々の短編のタイトルにも構成にも現れていて、幾層にもわたる仕掛けが施されて
います。
そういった隠れアイテムを探す楽しみもあります。
最終章で「月曜日の水玉模様」で主役だった片桐陶子と萩広海が出てくるのは、この作品と
このコンビが好きだったのでうれしい限りです。
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