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坂木司さん「青空の卵」 [本☆☆☆]

青空の卵

青空の卵

  • 作者: 坂木 司
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2006/02/23
  • メディア: 文庫

ひきこもり、という現代的な現象を逆手に取った安楽椅子探偵ものかと思ったら、見事に裏切られました。ミステリの体裁をとってはいますが(もちろん謎解きもありますが)、主人公 坂木司と鳥井真一の二人の成長物語ととったほうがしっくりくるような気がします。

物語は坂木司の一人称で語られます。(そういえば、作者と主人公の名前が同じというのは随分お目にかかっていないように思えます。偏った読書傾向なので思い出せるのは栗本薫さんと庄司薫さんくらいかなあ) 鳥井真一との付き合いは中学生から。鳥井は両親不在、特に奇矯ともいえる母親の出奔に心に空洞を抱いています。また、その孤高ともいえる態度からいじめに遭い、ひきこもりになります。坂木はそんな鳥井の傍にできるだけいてやろうと、比較的自由の利く職業に就きます。
物語は坂木が街で目撃し、関わるようになった事件を鳥井のところに持ち込み、解決するという展開です。

それぞれの物語の背景にあるものも、現代的な問題ばかりです。(ネタバレになっちゃうので書きません)

東京創元社の定番、「日常の謎」の連作短編集シリーズではあるのですが、加納朋子さんや米澤穂信さんのようにいくつかのストーリイの先に大きな謎や問題が収束するというスタンスはとられていません。むしろ、ひきこもりで行き先も非常に限られていたはずの鳥井の行動範囲が広がり、坂木の持ち込む事件・問題によって登場人物が増え、交友関係が広がっていくように、鳥井の回復の物語であり、いずれは坂木と鳥井の依存関係の変化に繋がっていくのだと思います。

坂木と鳥井の関係や、登場人物が揃いも揃って善人なのは不自然ながらも物語の必然性だと思います。ただ、それゆえに結末に救われるようなところもあります。考えさせられることもあります。
そして、4編の短編と1つの掌編を読み終わった後に、季節が巡っていることに気付きました。
どこか心の洗われるような作品だと思いました。

続編として短編集と長編がそれぞれ1冊ずつ出て完結するということなので、そちらも読んでみたいと思います。


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