本多孝好さん「FINE DAYS」 [本☆☆☆]
4編の短編小説です。そのどれもが魅力的でした。ファンタジーの色やホラーっぽいものもあり、ストーリイもバラエティに富んでいたと思います。
表題作の「FINE DAYS」は高校生の悪友と「僕」と、転校生の髪の綺麗な女子高生を巡る物語です。目を惹くほどの清楚な雰囲気の彼女に関するよくない噂が起き、丁度起こった高校での事故から学内に波風が立ちます。それを鎮めるべく悪友と動き出しますが、そこには彼女の姿が--。4作の中で一番気に入った作品です。転校生の彼女をキーパーソンにした長編が出ないかなあ、と思います。
「イエスタデイズ」は余命いくばくもない父に昔の恋人探しを依頼された主人公が出会う不思議な人々との物語です。ファンタジーの色が強く、父と子の葛藤と和解が感じられる作品だと思います。山田太一さんの小説を思い出しました。
「眠りのための暖かな場所」は子供の頃のトラウマに縛られる大学院生が出会った大学の後輩の抱える恐ろしい秘密を知ることで、自分を取り戻すべく、後輩を救い出すべく動き始めます。後輩が隠し、守ろうとする「秘密」の正体が怖いです。本格ホラーにならないのは作者ゆえなんでしょうか。
「シェード」はクリスマスの夜にアンティークショップに足を踏み入れた「僕」に売れてしまったランプシェードにまつわる物語を語り聞かせるアンティークショップの老女主人。彼女の語る物語と「僕」の物語が重なり合い、結末に実を結びます。
心情がしっかりと描写されて、時に軽妙な会話のやりとりがあり、どこか世を拗ねたような登場人物たちの恋愛物語は感情移入してしまいそうなほどしっくり入り込めました。
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