恩田陸さん「夏の名残りの薔薇」 [本☆☆☆]
やられました。構成から謎解きまで、「え、え、どういうこと」と混乱させておいて、しっかりと結論付けします。しかも結末は叙情的でありつつも、幾度も挿入される映画「去年マリエンバートで」の原作に描かれるシーンとシンクロするという、下手をすると強引な手法になってしまうところが、そうならないばかりか余韻さえ残しています。
章立ては、第1変奏から第6変奏という構成です。変奏曲というのは、同じ主題を繰り返しながらも少しずつ変えていく楽曲のことらしいのですが、見事に小説の章が「変奏」されています。
山奥の古びたホテルで毎初冬に財閥 沢渡グループを束ねる老三姉妹とその招待客が集い、日がな優雅で時に退屈な時間を過ごします。昼間は三姉妹の催す「お茶会」が開かれ、晩餐では三姉妹による意味不明で怪しげな昔話が披露されます。ただ、今年はなにかが違う、誰もが皮膚感覚でそう感じています。
それぞれの章の語り手が異なる中で、語り手の視点を変えながら時に重なり合いながらも物語は少しずつ歩みを進めます。語り手が変わる度に明らかになる交叉する人間関係。章の終わりに発生する殺人事件。しかし次の章に移ると事件は起こらないまま、次のシーンへ進みます。読んでいるうちに混乱が生じてきます。パラレルワールド?…SFじゃないよな。
人物造形とストーリイ展開が巧みなため、どんどん引きずり込まれていく感覚があります。
それだけに最終章がブツ切りされたような気がしました。タネ明かしをするにしても、もう少し凝ったやりかたでもよかったのではないか、そう思いました。不満といえば、それだけが不満でした。
けれども、練りに練られた物語を十分に堪能できたと思います。やっぱり恩田陸さんは期待を裏切らないです。
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