森絵都さん「風に舞い上がるビニールシート」 [本☆☆☆]
直木賞受賞作ですが、そんな「箔」なんてどうでもいいと思います。いいものは、いい。
「器を探して」「犬の散歩」「守護神」「鐘の音」「ジェネレーションX」「風に舞い上がるビニールシート」の6つの短編が収められています。焼き物、古典文学の考察、仏像修復師、国連難民高等弁務館事務所(UNHCR)と多様な題材です。その題材も(その道に詳しい人から見たらどうなのかわかりませんが)深く掘り下げられていて、それをベースとした年齢も性別も様々な主人公の置かれた立場や行動や心理が伝わってくるように感じました。
どの主人公も屈託を抱え、自分の進むべき道に迷い、これでいいのか/よかったのか悩んでいます。30歳を前にしてきまぐれなオーナーパティシエに振り回される女性も、仏像の造形美に惹かれながらそれを否定する職人肌の師匠と対立する20代の男性も、難民キャンプで殉職した元夫(とその志)を引き止められず後悔に苛まれる女性も、抱えるものは違いますが、自分がどうしたいのか理想と現実の狭間でもがき、ひとつの(正解ではないかもしれないけど)答えを見つけるまでを描いています。
それがベストかどうかなんて、誰にもわからない。周囲の人たちの手助けを受けながら、ベストと見定めた道に向かう結末にすっきりとした読後感が残りました。
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