佐藤多佳子さん「一瞬の風になれ」 [本☆☆☆]
今年読んだ小説の中で一番の作品だと思います。読んでいる間、鳥肌が立ち、背筋がゾクゾクし、ドキドキし、熱くなりました。
新二は中学まで続けていたサッカーを高校進学とともに辞めて、幼馴染の連と帰宅部していましたが、ひょんなことから連とともに春野台高校陸上部に入部します。
新二は天才ランナーの連の走りに目を奪われ、いつか連に追いつきたいと思うようになります。素人同然だった新二がフォームを改善し、過酷なトレーニングに耐えて100m、200m、400mリレーを主戦場とするスプリンターとして成長していく姿が丁寧に描かれます。
第1部(イチニツイテ)、第2部(ヨウイ)、第3部(ドン)というサブタイトルもいいですし、新二の学年も部でのポジションも考え方もランナーとしての意識も巻を追うごとに変化していってどんどん成長しているのが伝わってきます。それは新二だけでなく、連についてもいえます。むしろ新二の視点で見ているだけに連の変化のほうが強く感じられました。周囲にとやかく言われるのがイヤでマイペースだった連が3年生の時には…ビックリです。
新二と連を取り巻く周囲の人たちもいいです。生徒の自主性を重んじる陸上部顧問の三輪先生、同級生の根岸や谷口や鳥沢たち、先輩たち後輩たち、ライバルたち。それぞれが陸上に対する想いを持っていて、個性もあります。みんないい人ばかりという気もしないでもないですが、中位クラスの公立高校ってこんな感じです。なごやかでのんびりしていてあまりギスギスしていないです。
特に400mリレー(4継というらしいです)のシーンはまるで自分が走っているように手に汗握り、感動のあまり泣きそうになりました *^^*
新二の最大の変化が二人の天才にあるように思います。新二の兄の健一はカリスマ性のある世代別日本代表に選ばれるサッカーの天才、親友の連は無駄のない美しい走りを見せる短距離走の天才。健一と連は対照的です。それゆえに新二はサッカーに挫折して、陸上を続けられたのかもしれません。
ただ、とうとう恋の行方は語られず、残念でした。残念といえば兄 健一のその後もどうなったんだろう。気になります。
ラストは、それが次のスタートであることを予感させてよかったです。第3部のサブタイトルは「ドン」なんですから。
部活が記憶になった人も(帰宅部だった人も)、現在進行形の人も、これからの人もお勧めの本です。
はじめまして。私も息子も読みました。
実際のレースも見てくださいね。
by たらこ (2009-10-12 18:28)
nice! ありがとうございます。
駅伝も陸上も、実際に見てみたくなりました。目で見るのは違いますからね!
by とも〜る (2009-10-16 11:13)