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貫井徳郎さん「夜想」 [本☆☆☆]

年が明けてもコツコツこんなことをやっていこうと思います。


夜想 (文春文庫)

夜想 (文春文庫)

  • 作者: 貫井 徳郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/11/10
  • メディア: 文庫



デビュー作『慟哭』がミステリとして面白かったものの、幼女連続誘拐殺人事件という事件性とストーリイ展開と結末のあまりの衝撃に読まず嫌いになっていました。
なので、およそ10年振りの挑戦でした。読んでいて辛い箇所もありましたが、最後は胸がジーンとしました。

32歳の雪籐は悲惨な事故で目の前で妻子を亡くして以来、絶望のただ中にいました。仕事上でのケアレスミスの連続で職場に居づらくなった雪籐は、外回りをしているうちに天美遙という美少女と出会います。
物に触れることで、持ち主の残留思念を読み取ることのできる遙は、雪籐の落とした定期入れを拾ったことでシンクロし、雪籐のために涙を流します。
喫茶店でウェイトレスのアルバイトで働きながら能力を使って客の悩みを聞いていた遙に「救われた」と思った雪籐は、遙の力を多くの人に広めようとするのが自分の使命と考えます。そして遙によって悩みから解放された人々と《コフリット》という組織を立ち上げます。
マスコミにも取り上げられた《コフリット》は訪れる人も増え、それにつれてスタッフも増えていきます。更に遙の考えを広めたいと考えた雪籐は講演会を企画します。
しかし、サイドストーリイとして進んでいた子安嘉子の物語が交錯したとき、物語は大きく動きます。そこで雪籐は改めて自分を見つめ直すことになります。

雪籐の視点で描かれているので違和感はあまり感じませんが、他者から見たら新興宗教にハマっているとしか思えないでしょう。けれども、なにかに縋らなければどうしようもない心というものが描かれていて切実に感じられました。
自分を見つめ直すということは、自分の影の部分に向かい合うことでもあって、口で言うほど簡単なものではないと思います。けれど、この物語ではそんな「弱さ」を肯定する視点を与えてくれます。(とはいえ現実逃避を肯定しているわけではなく、自我崩壊すれすれの描写もあります)

残念だったのは、子安嘉子に「救い」がなかったことです。ある意味でキーパーソンだったわけなので、それなりの結末があってもよかったのではないかと思いました。

『慟哭』と比べてミステリ色が薄いこともあってテーマが前面に押し出されています。ミステリを期待した方は肩透かしをくらうと思いますが、じっくりと丁寧に描かれた内面の再生の物語は読み応え十分だと思います。

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