森見登美彦さん「きつねのはなし」 [本☆☆☆]
デビュー作の「太陽の塔」が京都を舞台にモテない大学生の自意識と妄想がとめどもなく膨らむ展開で、読んでいて押し潰されそうになり、無意識の拒絶反応を起こしていたのですが、この小説はすばらしい、と思いました。
「きつねのはなし」、「果実の中の龍」、「魔」、「水神」の4つの中編が収められています。
独立しながらも芳蓮堂、狐の面、いたちのようなケモノなどいくつかのキーワードで微妙にリンクしつつもどこかズレが見える不思議な構成になっています。
あまりメジャーでない京都の観光名所を押さえつつ、生活圏としての京都が舞台となっていて、そこに歴史を超えて潜む陰の世界が描かれるダークファンタジーです。抑えた筆致と今風でない文体と、町屋や古屋敷という舞台設定が時代がかって感じられます。実際には現代の設定なんですが、京都の持つ歴史と古色蒼然とした雰囲気が物語にうそ寒さを感じながらも読むわくわく感を覚えます。
一番のお気に入りは表題作の「きつねのはなし」です。
大学生の武藤は古道具屋「芳蓮堂」でアルバイトをしています。「芳蓮堂」のはかなげな雰囲気の女主人ナツメさんは、大事な売り物を割ってしまった武藤を得意先の天城さんのところへ使いに遣ります。闇に沈むような屋敷に一人で暮らす天城さんから代わりの品を受け取った武藤はその後も天城さんの依頼する奇妙な取引に次々と応じていき、やがて。。。
幻想的で耽美で、最近ではあまり見ない作品だけにとても強い印象を受けました。
それだけに、こんな味わいの小説をどんどん書いてほしいと思います。
コメント 0