犬村小六さん「とある飛空士への追憶」 [本☆☆☆]
初めてライトノベルというものを読んだのですが、意外としっかりしているなあ、という印象でした。
ストーリイ展開は特にひねりもなく、伏線も想定通りだったのですが、敵の巨大戦艦隊や戦闘機との空中戦は迫力があって一気に読んでしまいました。
海を挟んで東西に離れた大陸、西のレヴァーム皇国と東の帝政天ツ上とは終わりのない戦争を行っていました。当初有利に進めていたレヴァーム皇国は、帝政天ツ上の反攻を受けていました。
天ツ上帝国ののど元に位置するレヴァーム自治区サン・マルティリアが襲撃されて物語は動き始めます。レヴァーム皇太子の許婚のファナ・デル・モラルを逃がすため、空軍一の実力を持つ傭兵の狩乃シャルルはある密命を帯びます。
次期皇妃ファナを水上偵察機の後部座席に乗せて二人きり、1万2000kmの海を越えてレヴァーム皇国へと向かうというものです。制空権は完全に天ツ上空艇兵団に握られていて、十分な装備を持たない偵察機での飛行は自殺行為ともいえますが、シャルルはその任務に挑みます。
「光芒五里に及ぶ」と謳われる美少女は次期皇妃、一方の傭兵パイロットは最下層の出身という隔絶した身分差の二人は本来出会うこともなく、言葉を交わすこともかなわなかったはずが運命のいたずらで脱出行を共にすることになるわけですが、シャルルはある想いを抱いて、ファナを護り抜こうと決意しています。
ファナもシャルルに対する気持ちの変化に気づきながらも自分の立場との葛藤に悩みます。
すっかり見なくなった古典的な設定がかえって目新しく思いました。
古典的といえば敵国の戦闘機パイロットたちの騎士道精神というかサムライスピリッツというか、彼らが見せる行動も古典的でした。…だからプロペラ機なのか。
水上偵察機と、それをはるかに上回る性能を持つ敵戦闘機編隊との空中戦は迫力満点で読み応え十分です。雲や海などの飛行環境や敵戦闘機との位置関係と銃撃の回避行動などがわかりやすく描かれていて、それでいて描写が空中戦のリズムを崩していないので読みやすく臨場感がありました。
周囲の景色を視認して飛ぶために夜間飛行はできないことから、日が暮れた後は海上や地上(無人島)で過ごさなくてはなりません。
という設定がオフタイム(?)。
この時に出るサービスシーンはライトノベルの縛りなんでしょうか。なんだか読んでいてムズムズします。気恥ずかしくってそそくさとすっ飛ばしました。
またいくつかのシーンはジブリ作品を思い起こさせるものでした。宮崎駿さんが偉大なのか、或いは…。
文章はやや饒舌かな、と思いました。文学作品でも見たことがない言葉もありましたが、もっとシンプルな文体でもいいような気がしました。
終幕はさわやかで読後感も悪くはないのですが、どこかなにかのアニメで見たような…という既視感が残ってしまって余韻に浸ることができませんでした。
細かい部分は気になりますが、十分楽しめる小説です。
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