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北村薫さん「街の灯」 [本☆☆☆]


街の灯 (文春文庫)

街の灯 (文春文庫)

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫



「ベッキーさん」シリーズとでもいえばいいのでしょうか。北村さんの新しいシリーズもの第1弾です。
上流階級のお嬢様の花村英子と女性運転手「ベッキーさん」こと別宮(べっく)みつ子が様々な事件を推理する物語です。殺人事件の解決につながるものもあれば、北村さん得意の「日常の謎」系の推理もあります。

「虚栄の市」、「銀座八丁」、「街の灯」の3つの短編が収められています。

昭和7年、女子学習院中等科に通う英子を送迎する運転手として雇われたのが別宮みつ子でした。女性が車を運転すること自体が珍しい時代のことでした。その前に読んでいた本から、英子は「ベッキーさん」と呼ぶようになります。

新聞記事、兄の友人が仕掛けた謎、避暑地の別荘で起きた突然死、という事件を英子が推理して謎を解いていきます。今までのシリーズで見られたホームズとワトソンという関係性はここでは微妙に崩されています。
それはこの物語を通して、それまで籠の鳥同然だった英子が社会や人間の一部分を見て、精神的に成長していくというテーマがあるように思います。作中で英子にベッキーさんを「運転手兼護衛兼お目付け役兼家庭教師」と言わせているのがその傍証なのではないかなと思います。幾つもの自他的な思惑の交錯といったものや、現れることのない裏の面といったものです。

時代描写が巧みです。まるで昭和7年に行って見てきたかのように精緻で生き生きと描かれたな銀座の様子はすごいの一言です。ただ、五・一五事件についての言及があったわりには迫りくる暗い時代の気配は感じられず、それが当時の空気だったのか、世間と隔絶された上流階級のお嬢様の意識だったのかは分からずじまいでした。

ベッキーさんの正体も不明なままです。只者ではないことは作中にちりばめられたエピソードから明らかにはなりましたが、一体何者なんでしょうか、興味が涌きます。
この辺りは続編『玻璃の天』で明らかになっていくのでしょうか。

続編も楽しみです。

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