海堂尊さん「ブラックペアン1988」 [本☆☆☆]
「バチスタ」シリーズというよりも「桜宮サーガ」といったほうがいいのかも。とうとう時間を遡ってしまった。。。
バブルまっさかりの1988年の東城大学付属病院が舞台です。
佐伯教授率いる佐伯総合外科教室に、国内最高峰の帝華大学から高階講師が招かれます。「神の手」と呼ばれる佐伯教授を筆頭に技術重視の佐伯教室で、高階講師は術者の裾野を広げるべく「スナイプAZ1988」という器具を持ち込んで佐伯教授の得意分野である食道癌手術を行います。手術は成功に終わり、高階講師は確固たる地位を得ます。
その対極の存在として「技術の極み」を目指す渡海医師が高階講師のライバルとして現れます。
物語は新人研修医の世良の目を通して語られ、世良は'小天狗'高階講師と'悪魔'渡海医師との間で振り回され、また、院内の権力闘争を目の当たりにします。
やがて北海道で開かれる学会に参加するために佐伯教室のほとんどが出払ってしまった病院で緊急事態が発生します。腹痛を訴えた患者のレントゲンに写っていたのは…それは佐伯教授と渡海医師の父親が関わる過去に覆い隠された秘密でした。高階講師は手術を行うかどうかの判断を迫られます。。。
若き日の高階病院長の活躍を描いた作品です。タヌキと呼ばれる病院長とは少しキャラが異なりますが、若さゆえでしょうね。違和感は感じませんでした。
なおかつ、登場人物はしっかりシリーズを踏まえています。
高階病院長と犬猿の仲の黒崎助教授、藤原婦長に猫田主任に花房看護婦、そして学生時代の田口、速水、島津も登場します。田口が外科医を諦めたエピソードもしっかりあります。こういうの、うれしいですね。
ついでにいうと、黄金地球儀に触れられていたり、水落冴子も声だけ登場しています。芸が細かい。
細かいことをいえば、研修医の世良を「俊足サイドバック」として彼の行動を動きのあるものにしているのですが、サイドバックがチームのエースなんてありえないでしょ。いくつかそんな記述があって引っかかってしまいました。
ペアンとは止血鉗子の一種とのことで、通常は(というか手術器具はたいてい)銀色しているそうです。佐伯教授が持つただ1つのブラックペアンの理由は最後の最後で明かされますが、すとんと腑に落ちるものでした。それが過去と現在(1988年)をつなぐ鍵でした。
世良の視線で語られることから、新人医師の成長物語ともとれそうですが、むしろエンターテイメント性のある人間ドラマだと思いました。
どちらにしてもスピード感のある楽しく読める小説です。
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