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川端裕人さん「エピデミック」 [本☆☆]


エピデミック (角川文庫)

エピデミック (角川文庫)

  • 作者: 川端 裕人
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/12/25
  • メディア: 文庫



様々な科学ものをテーマにして、素人にもわかりやすく、さらにミステリ仕立ての小説を読ませてくれる川端さんの作品はデビュー作から楽しみにしています。
今回のテーマは伝染病(というか疫学)です。不謹慎ですが、昨年の新型インフルエンザ騒動のときに出ていたらマーケティング的にはよかったかもしれないですね。

首都圏C県の南端に位置するT市で季節的に収束していいはずのインフルエンザに罹る子供が急増します。不審に思った総合病院の小児科医師は院内感染予防セミナーで知った国立集団感染予防管理センターの実地疫学隊(FET)隊員・島袋ケイトに連絡をします。
ケイトがT市に赴くのと前後して大人の患者が重篤化、やがて死亡します。
漁村、野鳥の聖地、背後を山に抱かれた新興住宅地、怪しげなバイオ関連企業のビル、動物愛語団体の建物という環境に加えて、発症者が香港観光帰りという事情も加わって、感染源の特定作業という疫学調査は難航します。
ケイトの同僚・仙水望が加わり、フィールド疫学を駆使して感染源を特定しようとするものの、感染者は爆発的に増え、T市とその周辺地域に恐怖とパニックが広がります。やがて未知の感染症として、XSARS(イクサーズ)という仮称が付けられるようになり、国も対策に乗り出します。
果たしてケイトと仙水は感染源を特定して、感染拡大を阻止できるのか。

ケイトの少女時代の主治医であり疫学の師であり国立大学の教授に転身しているエキセントリックな棋理文哉と、国立集団感染予防管理センター長にしてウィルス研究者の御厨の棋理へのライバル心など人間関係とともに、フィールド調査を基本とする疫学とラボワーカーであるウィルス研究という本来は車の両輪でもある相互の微妙な反目も描かれます。
他に小児科医、地元保健所の職員、支局の新聞記者たちがそれぞれの思惑を持ちつつ関わっていきます。さらには、バイオ関連企業のビルに暮らす謎の美少年の影が見え隠れします。

疫学にとってのフィールド調査やオッズ比、R0(アールノート)といった方法論やツールが物語の中で分かりやすく解説されています。科学的(という言葉にケイトは煩悶していましたが)というより統計学的なようだと思いました。
作中にあるように「疫学探偵」が現場を回って、コツコツ証拠を集めては仮説を構築しては見直し、という作業は正直いって地味です。物語として、緊迫感や切迫感や焦燥感が出てたら読んでいてもっと面白かったかもしれません。

登場人物にも深みがほしかったです。肉親への想いや関わりあう人たちへの気持ちというものが希薄なような気がしました。
行政の不作為という問題も、本筋と離れてしまう懸念はあったのでしょうが、もう少し突っ込んでもいいように思いました。
また、終盤はご都合主義とまではいかないものの、物足りなさを感じてしまいました。
テーマが非常に魅力的だっただけに、ストーリイ展開や肉付けがもう少ししっかりしていたらとても面白かったのに、と思います。

ちなみに、感染の広がり方から
 エピデミック<アウトブレイク<パンデミック
と呼び方が変わるようです。

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