中村航さん「100回泣くこと」 [本☆☆]
直截なタイトルの本を思わず手に取って「泣きたいのか、自分?」と思ってしまいました。
けれど、泣いたのは主人公でした。当たり前か。
綺麗すぎるのと、ストーリイの割りに展開に起伏がないからでしょうか。
けれど、生きるとは、ということについて考えさせられたりしました。
主人公の藤井は会社員です。ある日、実家から電話がかかってきます。愛犬のブックが死にそうだというものです。帰省することにします。そのためにはブックと思い出の深いバイクが必要でした。上京して4年間乗っていなかったバイクを恋人の佳美と分解して洗浄します。その合間(!)に藤井は3年の付き合いの佳美にプロポーズします。佳美は「じゃあ、1年間結婚の練習をしようよ」と言ってくれます。 無事修理の済んだバイクで帰省するとブックは元気を取り戻します。そして始めた「結婚の練習」は楽しく、こんな日々が続いていくんだ、と思っていた矢先に。。。
小さなエピソードが積み重ねられていく過程は読んでいて心が温まる気持ちがしました。お互いを気遣いながら一緒に生活を始めるシーンもいいです。
また、あちこちに仕掛けられた小道具がさりげなくテーマを想起させて、上手いなと思わせるものでした。
淡々と進むストーリイが却って現実感を浮かび上がらせるのかもしれません。
声高になにかを主張するわけではなく、読み手にそれとなく気付かせるタイプの小説なんだと思いました。
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