はらだ みずきさん「海が見える家」 [本☆☆]
初読みの作家さんですが、当たりでした。
苦戦した就活でどうにか潜り込んだ先はブラック企業。働き始めて一ヶ月で辞職した。しかし、再就職のアテもなければ蓄えもない。そんな矢先、疎遠にしていた父親の訃報が飛び込んできた。孤独死したのか。どんな生活を送っていたのか。仕事はしていたのか。友人はいたのか。父について何も知らないことに愕然としながらも、文哉は南房総にある父の終の棲家で、遺品整理を進めていく。はじめての海辺の町での暮らし、東京とは違った時間の流れを生きるうちに、文哉の価値観に変化が訪れる。そして文哉は、積極的に父の足跡をたどりはじめた。「あなたにとって、幸せとは何ですか?」と穏やかに問いかけてくる、著者新境地の感動作!
(出版社HPより)
疎遠だった父の死を知らされ、退職後に父が南房総に購入した家で遺品整理をしていくうちに父の過去、終の棲家での暮らしなどを知ることで主人公に前向きな変化が表れていきます。
無口で仕事人間だった父しか知らない文哉が、足跡をたどるうちにその印象が少しずつ変わっていく様がいいです。
また、「ぶっきらぼう」と呼ばれたなんでも屋の和海や地域の人たちとの交流や、はからずも父の仕事を引き継ぐことになってしまった結果、仕事に対する「やりがい」を見出す過程も丁寧に描かれています。
それらが南房総の開放的な空気の中で都会の生活に追い詰められた文哉の心を解きほぐしていきます。
なかでもラストシーンがいいです。
父と同じ景色を見て、沖を振り返ると「少年のように」笑っている━━印象的な情景でした。
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