米澤穂信さん「春期限定いちごタルト事件」 [本☆☆☆]
片山若子さんの表紙だけで手に取ってしまいました。いつもながら淡くて可愛くてそれでいて
どこか凛としている絵が好きです。最近は星新一さんの文庫の表紙も手がけているみたいです。
表紙だけで読み始めたのですが、内容もなかなかに面白かったです。
晴れて高校に入学した小鳩くんと小佐内さん。二人は小市民たるべく互恵関係を維持している
というなんてネガティブな、とも思える指向。けれどもそうするには訳があって、小鳩くんの
それは本書でおいおい明らかにされていきます。
才気走る小鳩くんは小市民たらんとするのですが、校内で起こるちょっとした事件の謎解きに
巻き込まれてしまいます。いわゆる「日常の謎」系なんですね。軽妙な会話や小鳩くんの
独白も読んでいてにやっとしてしまいます。
けれども、謎の解明が必ずしもハッピーエンドをもたらすわけではないところがこの作品に
深みを与えているような気がします。タイトルも、作中に出てくるスイーツ類もいかにも
甘ったるそう(ケーキバイキングのところでは、「うえっぷ」と思ってしまいました (^^ゞ )
なんですが、結末はほろ苦いものです。知らなきゃよかったということは往々にしてあるもの
です。
気になるのは小佐内さんの謎です。忍者のように気配を消して相手の背後に回りこむことが
できる(ゆえに小鳩くんの肘打ちをくらってしまうのですが)特技の持ち主はなぜに小市民を
目指すことにしたのか、執念深さというキーワードが語られるもののそこに至った理由は
説明されないままでした。続編の「夏期限定トロピカルパフェ事件」で書かれるのでしょうか。
楽しみです。未刊ですが、「秋期限定」「冬期限定」も読みたいです。
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