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川端裕人さん「せちやん 星を聴く人」 [本☆☆☆]

せちやん 星を聴く人

せちやん 星を聴く人

  • 作者: 川端 裕人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/10/14
  • メディア: 文庫

科学が明るい未来を切り拓く、なんてことは科学の持つ負の側面の顕在化もあり遠い昔の
夢物語に片付けられつつありますが、そんな状況の中でも(というか、そんな状況に関係なく)、
少年時代に抱いた夢を追って実現しようとするパワーをもった人たちを描いた作品が多かったの
ですが、一転して想像もつかないような結末が待っていました。

主人公の透は中学生のときに、同級生の二人と学校の裏山をあてもなく歩いていて「摂知庵」
という木造の古い建物を発見します。
住んでいたのは30代の男性。膨大な蔵書とレコードと天文に関する男性の博識に主人公たちは
惹かれ、男性を「せちやん」と呼び、摂知庵に入り浸るようになります。
彼ら3人はそれぞれ夢中になるものを見つけます。
バイオリン演奏、読書から創作、そして透は天文へ。
透は「せちやん」が自作したプラネタリウムに夢中になり、やがて、これも「せちやん」の作った
電波望遠鏡での地球外知的生命体の探査(SETI)の助手も務めます。
彼らは「せちやん」が宇宙から拾った電波を加工した「宇宙バイオリン」の音色にそれぞれが
感銘を受け、それを自分なりに表現しようと試みます。

大人になるに従って彼らはそれぞれの道を歩み始め、透もまた経済的成功を収めるにつれて
星空を見上げることはおろか、「せちやん」のしていることに対して幻滅を覚えるようになります。

最後に透は友人たちが創作した曲や詩を通してと精神的邂逅を果たし、「せちやん」の影を追う
ことになるのですが、そこに至る過程は辛く苦しいものです。
その先にあるものも、充足感ではありません。

けれども、読み終わった後、それを拒絶感なく受け入れていることに気付きました。決して前向きな
気持ちではないのですが、無常さを受け止めることも必要不可欠なことなんじゃないのかな、
と思いました。

「川の名前」が子供に読ませたい本であるのに対して、この本は対極的に大人じゃないと
わからない苦さのようなものがあると思います。


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