樋口有介さん「彼女はたぶん魔法を使う」 [本☆☆☆]
16年前に初出された本なんですが、こんなに面白い本があったのか、という発見です。
書店でタイトルに惹かれて手に取ったのですが、読み始めてハードボイルドだということに
気付きました。およそハードボイルドと思えないタイトルではないかと思います。
ちょっと軟らかめのハードボイルドです。というか、主人公の柚木草平がハードボイルド路線を
狙ってるのに、いまひとつなりきれていないというか。主人公の独白が軽妙洒脱すぎるというか。
その軽妙洒脱さがいい味を出しています。
柚木草平は元刑事。警視庁本庁勤務経験もあるらしいので、現場の刑事としては優秀だったの
でしょう。ある事件を契機に退職したことがほのめかされています。妻子と別居して、今は刑事事件
専門のフリージャーナリストを本業にしていますが、その他に、事件性に疑義があるものの、警察
機構としては手が出せない事件の調査を恋人であり警察庁キャリア官僚である吉島冴子から
秘密裏に回してもらってます。いわゆる探偵というやつですね。
今回は轢き逃げ事件の被害者の姉からの依頼です。妹の周辺にトラブルが見当たらないことから
交通事故と警察が判断しているけれども、妹の婚約者からの婚約破棄が最近あり、婚約者が
怪しいという姉の訴えに柚木は調査を開始します。柚木曰く「美人が絡むと俄然張り切る」という
困った病癖(これも本人談)もあるようですが…^^;
調査が進むにつれて、事件は混迷を深めていきます。元婚約者のアリバイ、元婚約者と姉妹の
関係、両親を早くに亡くした姉妹の関係、かつて姉が通っていた塾の経営者の影、なぜか
発見されない事故を起こした車。
そして、柚木の調査で出会う女性はなぜか美女ばかり(約2名除く…)。
数多くの女性が登場しますが、その中でも、被害者と大学での親友だったという夏原祐子は
いろいろな意味で柚木を翻弄します。
二人の会話を読んでいるだけでも楽しい。かみ合っているような、そうでないような。どこか
とぼけた風貌という描写の祐子の口から発せられる何気ない言葉が中年男を困惑させます。
柚木も精一杯キザなセリフで応戦するのですが、負けは見えてる…。
多くの登場人物の思惑を孕み思いもかけない方向へ転がっていき、真犯人に辿り着きます。
そう来たか、という展開でした。しかも、「名」探偵の推理が外れるというおまけ付きで。もちろん
柚木が真犯人を当て、事件を解決するんですけどね。
続編も出ているということですので、ハマってみようと思います。
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