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宇月原晴明さん「聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ)」 [本☆☆☆]

聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ)

聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ)

  • 作者: 宇月原 晴明
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/09
  • メディア: 文庫

まずはその壮大なスケールに圧倒されました。歴史の間隙を突くような発想力とそれを組み立てる想像力と史実に大きく外れることなく着地する構成力、そして伝奇小説ならではのおどろおどろしいまでの世界。
「信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス(http://blog.so-net.ne.jp/tomo_all/2006-04-07)」や「黎明に叛くもの(http://blog.so-net.ne.jp/tomo_all/2007-01-18)」のような目的に向かって一直線に突き進む展開ではないので、もどかしさのようなものはありますが、その分、関白 秀次が穏やかな一面しか見せない裏で一体なにを企んでいるのかが見えない怖さのようなものがありました。どうなっちゃうんだろうというドキドキ感もありました。

秀吉による天下統一後の京都。秀頼(お拾)が生まれてから居を大阪城に移した秀吉に対して、都にある聚楽第の主は秀吉の甥であり養子の秀次でした。そして都の人の口に上るのは「殺生関白」のむごたらしい噂でした。
そんな折、歩き巫女の竹は怪しげな異人たちと出会い、聚楽第に連れて行かれますが、そこには秀次の夫人をはじめとしたやんごとなき姫君たちがいて、噂に上っているような残虐な出来事などひとつもありません。ただ一つ、奇妙な儀式と毎夜見る奇妙な夢以外は。
同じ頃、「殺生関白」の噂と秀次から諸大名に貸し出されている膨大な黄金の話を耳にした家康は服部党を聚楽第に忍び入れます。同時期、秀吉→秀頼という天下掌握のために秀次の存在をなんとかしたいと考える石田三成はこれまた忍びの蜂須賀党に聚楽第を探らせます。しかし、次々と放たれる手錬れの忍者たちは奇怪な死体で発見されます。
その頃、異端者が日本に逃れてきたとの情報を得て、異端審問組織「主の鉄槌」から一人の異端審問官が日本に派遣されてきます。彼は服部党の手助けを得て聚楽第に忍び込みます。聚楽第の広大な地下で彼らが目にしたものとは…。秀吉の抱える秘密とは、秀次の目的とは、異端者はなにを目的に日本に来たのか…。

多様な登場人物たちがそれぞれの思惑を抱えて物語を動かしていきます。秀吉に対して戦友以上の気持ちを抱き天下など到底望んでもいない家康や、天下人でありながら秀次に対しておもねる姿勢で、ことあれば秀頼を討てと家康に告げる秀吉、その老いた二人が憧憬の念のように見る信長とその妹のお市の方の影。淡々と職業人としての服部党の忍び 平六、異端審問官としての職業意識の傍らでパートナーとしての平六に信頼と侮蔑の念を抱くガーゴ。夢と現の間で翻弄される竹。そして悲壮な笑みを浮かべながらも着々と目的に向けて歩を進める秀次と彼の影で見え隠れする茶々こと淀の方。

4つの色がリフレインのように様々な場面で繰り返されて、中盤のクライマックスへの鍵となります。この辺りの展開も巧みです。
また、秀次に影のように付き従う曽呂利新左衛門が繰り出す妖術が目新しく、平六とガーゴがどう立ち向かうのか楽しみでした。
そして、かの有名な西欧の救世主にして悲劇の人物が100年以上の時間を経て日本でその名が出てこようとは想像もしませんでした。

信長の死後、時代が徳川政権へと移り行く流れのなかでの物語なのですが、作者も秀吉も家康も信長という軛から解き放たれない、そんな印象を受けました。


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