伊坂幸太郎さん「重力ピエロ」 [本☆☆☆]
今時(裏を返せば普遍的ともいえますが)という感じがしなくもないですが、「家族」がテーマのミステリです。というか、ミステリの形をとりながらの家族小説という印象が強く残りました。
苦く、切なく、そして最後には温かい気持ちになる作品です。
語り手の「私」こと泉水は遺伝子解読・判定をする会社に勤めるサラリーマン。癌に侵されて病院で手術を待つ父と、街の落書き消し業をしている弟の春の3人家族。それぞれに居を構えています。
彼らには永遠に塞ぐことのできない傷があります。
ある日、春が仙台市内で頻発している放火事件の共通項を見つけたと泉水と父に話します。それは、放火場所に程近い所にグラフティアートと呼ばれる落書きがあること。その落書きは英単語で、繋げると意味のわからない英文でした。
ここから英文に込められた謎解きが始まります。そして放火犯探しもまた。
読み進めていくうちに、放火犯が誰なのかはわかってきます。ただ、その動機がわかりません。その先にあるものも見えません。家族以外の登場人物がどう関わってくるのかも不明です。
やがて英文の謎が明らかになっていくにつれて、物語の全貌が見えてきます。この辺りのありとあらゆる謎や伏線が一つに収束していく過程は伊坂作品毎度のことながら見事です。
人間は血や縁というものから逃れることはできません。けれども、それを飛び越えてしまう「言葉」というものが人を桎梏から解き放つことができる力を持っているということに素直に驚きを覚えました。父の言う「春は自分に似て嘘が下手だ」に凝縮されているような気がします。
回想による挿話が多くて少し煩わしさもありますが、どこか飄々とした泉水、エキセントリックな春、マイペースな父、回想でしか出ませんが毅然としながらも優しさを放ち続ける母というキャラクターを掘り下げているように思えます。
そして、お約束ともいえる他作品の登場人物のカメオ出演(?)もありますし、重要な役どころでの登場もあり、こちらも楽しみのひとつです。
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