大崎善生さん「九月の四分の一」 [本☆☆☆]
4つの清冽な短編集です。
惹句に「喪失と再生」とありますが、すべての物語を通して喪失が明確なのに対して、再生はそれぞれに異なり、人は様々な形でなにかを見出すんだな、と思いました。
なかでもよかったと思ったのは「ケンジントンに捧げる花束」です。どこか作者の体験を物語にしたような作品は60年以上も昔に異国で生きてゆくことを決めた日本人のドラマティックな人生と、彼と彼を支える女性との強い愛情が心にしみました。
ただ、結末は果たして必要なのか…個人的には余韻を残して終わったほうがいいように思いました。
表題作の「九月の四分の一」は時間の流れがもたらす切なさと凝ったストーリイ展開のラブストーリイです。
異国での思わぬ男女の出会いと接近と別れ、彼女の残したメッセージに隠されたもの。それらが十数年の時を経て明らかになります。
ブリュッセルとパリという落ち着いた雰囲気を持つ都市が叙情性を高めているように思えます。
長編の「ロックンロール」と同じ系統というか、流れの中で生まれた作品のように思いました。
それまでの重く硬質な雰囲気が和らいだような。清浄な雰囲気はそのままに、今までも一人称で語られることが多かったと思いますが、より登場人物の輪郭のようなものがくっきりと感じられました。
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