米澤穂信さん「秋期限定栗きんとん事件」 [本☆☆]
秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)
- 作者: 米澤 穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/03/05
- メディア: 文庫
およそ3年ぶりの「小市民」シリーズ新作です。
仮題「秋季限定マロングラッセ事件」が「秋期限定栗きんとん事件」と変わりましたが面白く読みました。だんだんダークになっていくのは「…」としても。
前作「夏期限定トロピカルパフェ事件」で小市民としての互恵関係を解消した小鳩くんと小佐内さんですが、それぞれの道(?)を歩き始めます。
小鳩くんは同じクラスの仲丸さんと付き合いはじめ、週末にはデートをするようになります。
小佐内さんは1年生の新聞部員の瓜野と付き合いはじめます。
物語は小鳩くんの視点と瓜野の視点で交互に語られます。
その頃、木良市内では月に1度、放火事件が起きていました。それが連続放火事件だと気付いたのは瓜野でした。野心家で船戸高校新聞部に名を残したいと思っていた瓜野はこの事件を毎月発行している船戸新聞で取り上げることを思いつきます。それだけでなく、事件の法則を発見して、次に放火される場所を予測できるようになるのです。
一方、小鳩くんは家の近所で起きた放火事件を友人であり新聞部部長でもある堂島健吾に話したことで経緯を知ります。そして小佐内さんがなにか鍵を握っていると読みます。そして事件を収束させるためのシナリオを描きます。
半分進んだところで放火魔が誰か、見当がついてしまいました。(消去法ですが)
ただ、そこでお楽しみが終わりになったわけではなく、小佐内さんがなにを狙っているのか、小鳩くんが仕組んだシナリオとはなにか、小鳩くんのデートシーンであちこちに散りばめられた「日常の謎」解きなど読み解くネタはたくさんあって飽きません。
ネタばらしではミスリードと思って避けた後に作者が仕掛けた穴に見事にはまってしまいました。やられた、というのが楽しくもあります。
毎回このシリーズは後味がよくないのですが、今回も期待(?)を裏切りません。
ただ、なんとなく共感できる部分があるんです。この時期にうっとおしいながらも感じていた自意識というものかもしれません。「小市民の皮をかぶった狐や狼」の小鳩くんや小佐内さん、あるいは仲丸さんや瓜野ほどではありませんが少しはあった自分の自意識というものを思い出しました。
そして挫折や己の限界を知るわけですが、そこから見えてくるものもあるわけで、この作品でもエンディングとして無理なく着地していると思います。
そういう意味では単なるミステリでなく、青春モノでもあり、そこに共感を覚えるのかもしれません。
ただ、作品中の時間をかけすぎな気がします。事件の発生頻度や回数など物語の展開上の都合ではあるんですが、いたずらに長くなってしまった感があります。ミステリのネタとしての放火もどうか、と。犯人や動機の扱いなど難しいと思います。実際にこの辺りの収束は読んでいてしんどいと思いました。
最後は「冬季限定」となりますが、どんな事件になるんでしょう。小鳩くんと小佐内さんの関係の結末は(ハッピーエンドだけは想像できない)。そして、どんなスイーツがタイトルを飾るんでしょうか。ずっと果物が入っているので、リンゴでしょうか。楽しみです。
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