樋口有介さん「林檎の木の道」 [本☆☆☆]
「風少女」に近い、青春ミステリ小説です。もはや定番な感じもするのですが、男の子が気の強い女の子に振り回されつつも真相を解明しようとするストーリイは、あったかもしれない青春を思い起こさせます。
広田悦至は高校2年生。夏休みのある日、元カノの由実果からの渋谷で遊ぼうという誘いを断ります。その数日後、由実果が千葉・御宿で自殺したと知らされます。
由実果の通夜に出た悦至は、ボーイッシュで気の強い涼子と出会います。涼子は由実果と友人で、悦至とも幼稚園で一緒でした。涼子は由実果が自殺するはずないと主張し、悦至も自殺に疑念を抱いていたため、死の真相を探るべく調査を始めます。
そこには二人の知らない由実果の姿がありました。
誰しも他人に見せていない側面があると思います。それを暴くのがいいのか悪いのかという葛藤、友人の知らなかったもう一つの顔を知ってしまう苦しさもあるでしょう。作中では悦至と涼子が由実果に抱いているものゆえの行動としています。そこに人と人とのつながりを感じました。
それは周囲の登場人物たちにも現れています。悦至の母親は「バナナで地球を救う」目標を掲げる植物学者、祖父は自分の娘より若い元女子レスラーと小料理屋を営み、登校拒否の友人はなぜか悦至にまとわりつき。誰もがなにかしらの形で悦至とつながっています。悦至をつなぎ止めているといってもいいかもしれません。
なんといってもクールに振舞おうとする悦至と、(本人は否定するも)勝気で怒りっぽくてそれでいてどこか純真な涼子の微妙な関係が気になります。
樋口さんの描く主人公は虚勢でもハードボイルドを貫こうとする言動をするのですが、この作品では悦至の内面でいい意味での「弱み」が描かれています。外見での強さと内面での弱さがバランスが取れていて、柚木草平シリーズと違う少年っぽさのようなものを感じました。
だからこその最後の一行が効いているのかもしれません。
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