石持浅海さん「セリヌンティウスの舟」

セリヌンティウスの舟 (光文社文庫)

• 作者: 石持浅海
• 出版社/メーカー: 光文社
• 発売日: 2008/05/13
• メディア: 文庫

セリヌンティウスとは「走れメロス」でメロスの代わりに人質になった親友の名前だそうです。うーん、メロスしか覚えてなかったです。

メロスとセリヌンティウスのように強い信頼で結ばれた6人の男女による推理物です。

児島克之はダイビング仲間の美月、清美、麻子、三好、磯崎たちとダイビングの後の宴会で酔い潰れ、明け方に目を覚まします。そこで美月が死んでいるのを発見します。青酸カリによる服毒自殺でした。
美月の葬儀の後、残された5人は美月の死を悼むために集まるのですが、そこで当時の不自然な状況に気付きます。
大時化の海に投げ出された6人は奇跡的に救助され、死を乗り越えたことで強い信頼関係で繋がっていたはずで、美月はそんな彼らを巻き込むようなことはしなかったはず。だとしたら協力者がいたのでは？　それは誰なのか。

「月の扉」もそうでしたが、そもそもの本筋と違うところで話がどんどん進んでいってしまう傾向があります。それってどうなんだ、というのと、不謹慎だ、と思ってしまうのは純粋にミステリを楽しんでいないからでしょうか？

ミステリとしては大掛かりなトリックやアリバイ崩しがあるわけでなく、「誰が」「どうやって」という謎を解くフーダニットとホワイダニットを議論します。新しい説を唱えては、誰かがそれを否定する。それを繰り返すことで真実に迫っていくというものです。
議論がまどろっこしいとか、わかりやすい展開にならないといった意見もあるとは思いますが、そんな世界を構築して小説にまとめ上げてしまう力量があるような気がします。

論理的に組み立てられた物語は手ごわいですが、読んでいて楽しいものがあります。