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佐藤正午さん「5」 [本☆☆☆]


5 (角川文庫)

5 (角川文庫)

  • 作者: 佐藤 正午
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/01/23
  • メディア: 文庫



7年ぶりの最新作ということです。ある意味では平易な、ある意味では難解な小説です。本のボリュームもそうですが、読み応えがあります。
さすが、という思いです。

惹句は「新感覚の大人の恋愛小説」という触れ込みですが、読んでいる最中は恋愛小説と捉えられませんでした。読後しばらく経ってからじわじわとわかってくる、そんな感じです。

作家の津田伸一を中心に、津田の一人称と、他の登場人物の視点とで語られます。
始まりは中志郎と真智子夫妻がバリ島を訪れたことでした。結婚8年目の彼らは倦怠期にあるのですが、とあるきっかけで新婚当時の愛情を取り戻します。それはイシバシという、バリ島でも手袋をしている女性が手袋を脱いで志郎と接触することで、志郎が真智子への「愛の記憶」を取り戻すというものでした。
一方、作家の津田伸一は出会い系サイトで知り合った多くの女性と関係を持つという自由な生活を謳歌しています。女性たちの中には真智子もいました。真智子は津田に別れを切り出し、志郎は津田とひょんなことから知り合い、志郎が「奇跡」と呼ぶイシバシとのことを津田に話します。
やがて志郎は「愛の記憶」についてある確信に至り、津田はイシバシと会い、物語はゆっくりと結末に向かって動き始めます。

「かならず冷めるもののことをスープと呼び愛と呼ぶのだ。」

ある意味で真理でしょう。ただ、愛にもいろいろあり、(一人に向けた)ひとつの愛が冷めることが愛の消滅を意味するのではないと思います。…いや、もう一段の深読みをしなくてはならない気がしてきました。逆説的に愛を語っている?

津田伸一の人物造形がいいです。有名な文学賞を取りながら、2度の筆禍事件を起こして「干され」ても懲りない。2度の離婚を経験し、中真智子の他に、長谷まり、ロコモコ、サクラバといった多様な女性たちと出会い系サイトを通じて関係を結び、多くの語彙を操り、傲岸不遜でシニカルで辛らつで斜に構えている。近くにいたら近づきたくない、友人にはなりたくないタイプです。
だからこそ(愛を信じていない?)この物語の主人公に相応しいのかもしれません。
その意味で、津田に共感できないと挫折する小説かもしれません。

『Y』でタイムスリップが効果的なツールとして使われていたように、イシバシの持つ「超記憶術」が他人との接触によって転移することへの影響が物語の鍵となっています。
津田がどこに行き着くのか、それを「見届ける」だけでも十分面白い小説だと思います。

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