恩田陸さん「木漏れ日に泳ぐ魚」 [本☆☆☆]
久しぶりに恩田陸さんの小説を読みました。
記憶から推論を重ねていく、舞台演劇のようなミステリでした。
家財道具ひとつないアパートの一室でヒロとアキは最後の一夜を過ごします。夜が明けたら同居関係を解消し、別々の道を歩み始めるする予定でした。
ヒロとアキは幼い頃に離れ離れになった双子の姉弟でした。大学で偶然に再会して一緒に暮らし始めたのです。
しかし、旅先で遭遇した一人の男の死からヒロとアキの関係はぎくしゃくしたものになっていきます。
その男の死を巡って互いに疑念を抱き、それを言い出せずにいたのでした。
最後の夜、二人は会話を重ね、やがて思いがけない真相が明らかになります。
二人が記憶を辿り、重ね合わせて補正をして整合していった結果、疑念や違和感が解消されていくのは読んでいて霧が晴れるようでした。
次々と提起される疑問を解決していくうちに全体像が見えてくるくだりはすっきりする反面、やるせない気分にもなりました。
しかし、その過程である事実が明らかになるところは途中で予想がついたものの、ラストの展開は想定外でした。
二人の会話と思考だけで物語を成立させてしまう筆力はさすがです。
なかでもアキのヒロに対する観察と評価そして結論は冷静で、こういう状況になると女性のほうが強いんだなーと思いました。
ひしひしと伝わってくる心理劇を思わせる物語、恩田さんの真骨頂を堪能しました。
コメント 0