村田沙耶香さん「消滅世界」 [本☆☆]
すごく評価の難しい作品です。
清潔でグロテスクな未来世界が描かれます。
人工授精で、子供を産むことが常識となった世界。夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、やがて世界から「セックス」も「家族」も消えていく……日本の未来を予言する芥川賞作家の圧倒的衝撃作。
(出版社HPより)
パラレルワールドの日本が舞台です。
とはいえ、現代日本でもその萌芽が見られるように思います。それだけにいいようのない気持ち悪さがあります。
主人公の雨音の視点で物語が進むので、一市民の観点での世界はのっぺらぼうのような寒々しい印象を覚えました。
また、施政者の側の人間が一切登場しないので、この世界がどういった方向に進もうとしているおかがわからず、余計に不気味に感じました。
東京と、実験都市となった千葉県それぞれのシーンでの雨音の変わりように恐怖を覚えました。
それが適応するということなのか、社会の下地になっているのか、情報が提示されない展開は恐怖の何者でもありません。
また、人工授精や人工子宮の技術だけが異様に発達した世界というものに違和感を覚えました。
人間の願望や欲望といったものが科学技術を発達させると思うのですが、生殖技術だけということってあるのかなあ、と。
ただただ不気味で清潔なのに不快という矛盾する気持ちの悪い、それでいて思わず覗き込みたくなるような作品でした。
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