森見登美彦さん「夜行」 [本☆☆☆]
森見さんらしい、けれども森見さんらしからぬ幻想的な作品です。
この世界観好きだなあ。
「尾道」「奥飛驒」「津軽」「天竜峡」「鞍馬」の5章立てになっています。
僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。
私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」
(出版社HPより)
『夜は短し歩けよ乙女』のような貧乏大学生がわちゃわちゃする物語ではなく、どちらかというと『きつねのはなし』を昇華させたような作品です。
学生時代の友人たちが観光や仕事で訪れた先で岸田道生という画家が日本各地の風景を銅版画に描いた「夜行」シリーズと出会い、幻想的な出来事が展開されます。そして、そこには鞍馬の火祭りの夜に姿を消した長谷川さんという女性の姿が見え隠れします。
そして、それらは最終章の「鞍馬」に収斂されます。
(鞍馬の火祭でさえ)静寂でしんとして、迷い込んで抜け出すことのできない夢のように不穏な空気感に満たされています。
「もうひとつの京都」という異世界は従来の森見さんの作品にも描かれていましたが、今作はネガとポジとでもいうべき世界が展開され、魅了されます。
いろいろ伏線は回収されていませんが、ラストがじわっときます。
何度も読み返して味わいたい作品です。
2020-08-28 08:26
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