柏井寿さん「鴨川食堂もてなし」 [本☆☆]
シリーズ第7弾です。いい感じの人情ものになってきました。
「ビフテキ」「春巻」「チキンライス」「五目焼きそば」「ハムカツ」「ちらし寿し」の6編が収められています。
料理雑誌に掲載されている、「食捜します」の一行広告。食にまつわる心に秘めた想いを胸に、依頼人がたどり着くのは、京都にある看板のない食堂。店主の鴨川流と娘のこいしが、再現された思い出の料理で温かく迎えます。認知症の父が母と一緒に食べたというビフテキ、幼馴染みの母親が作ってくれた春巻、後悔が詰まったチキンライス、亡き夫が食べたがっていた五目焼きそば、料理人を目指す原点になったハムカツ、料理をしない父がめずらしく作ってくれたちらし寿し…。悩むことがあれば、ぜひ当店へお越しください。京都発、大人気美味しいミステリー第七弾!
(「BOOK」データベースより)
それぞれがいたって普通の食べ物ですが、その実は…とシリーズ初めのような一捻り効かせたものになっています。テーマ探しが大変でしょうが、読む側としては原点回帰しているようでうれしいです。
その土地土地にゆかりのある食べ物━それも日常的な━って旅行してもなかなかアンテナに引っかからなかったり、つい名の知れた名物を選んでしまうので食文化の多様さと思いがけない地域的な繋がりの発見が楽しいです。
その料理の奥に依頼人の人生の岐路となった出来事があり、今回はなかなか重いテーマが横たわっていました。
流によって明かされた真相や事実を受け入れた依頼人たちは新たな一歩を踏み出します。今作はどれも共感できるものばかりで、胸が熱くなったり、じんわりしたり、きゅっとなったりしました。
(「ハムカツ」で語られた”ビジネス”グルメ評論家のくだりはなかなか辛辣でした)
これまで名前だけが出てきていた料理雑誌『料理春秋』編集長の大道寺茜も登場します。けれど、鴨川流・鞠子夫妻との関係性はぼやかされたまま。
いつか明かされることもあるんでしょう。
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