朝井まかてさん「落陽」 [本☆☆☆]
明治神宮造営と「神宮の杜」計画にまつわる明治人たちの物語です。
一介の新聞記者の眼を通して描かれる「明治とは」「天皇とは」が重く伝わってきます。
明治天皇崩御―直後、渋沢栄一ら東京の政財界人は御霊を祀る神宮造営を計画、その動きは巨大なうねりになっていく。一方、帝国大学農科大学の本郷高徳らは、「風土の適さぬ東京に神宮林にふさわしい森を造るのは不可能」と反論、大激論に。東都タイムスの記者瀬尾亮一は、対立を追う同僚に助力するうち、取材にのめり込んでいく…。天皇と日本人の絆に迫る著者入魂作!
(「BOOK」データベースより)
新しい一万円札の肖像画となる渋沢栄一が中心となって進められる一大プロジェクトの物語かと思ったら、まったく違う角度から掘り下げられたストーリイでした。
実に朝井さんらしい市民目線で物語が進みます。
明治天皇の崩御から始まった物語は明治という激動の時代に幕を下ろし、大正という短くも絢爛な文化が華を開きつつも軍靴の響きが遠くに聞こえる時代が描かれます。
三流新聞の記者・瀬尾亮一は神宮造営の取材を進めるうちに「日本人にとっての明治天皇」「明治天皇はこの時代をどう捉えていたのか」ということに興味を抱いていきます。それは近代国家に変貌を遂げようとする日本にその存在を(それまでは御簾の奥にあらせられた)意識させられた日本人の物語でもあると思います。
それはラストの光景と「落陽」というタイトルに集約されます。
最後の一文に込められた想いが重く切なく、読み終えたくないという気持ちになりました。
明治神宮の杜が全国からの献木でできているというのは知っていましたが、その完成は造営から150年先だということを知りました。まだ50年も先なんですね。
久しぶりに参拝に行こうかな。
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